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「ねー、センセー!」

社会科準備室、統一感の無い文明の書庫を整理していた僕の背中を。
逆向きに椅子に座った生徒が、爪先で突いて声をかけてくる。

「人生って選択の連続だって、センセー言ってたじゃん?」
「…言ったね」

とりあえず言葉は返す。
座り方は…どうせ注意しても嬉しそうにするだけだから、今日はいいか…

「あれって、みんなそうなの?」
「そうだよ、君の好きなゲームに例えるなら…。ルートがたくさんあって、そのルートをたくさん選ぶと、いい事が起きるよ。って話かな…?」
「ふーん?」

言葉を聞いて足をぷらぷらさせる生徒。
仕方ないので椅子にもたれかかる形で、椅子が倒れるのを防いでやれば、「あっ!」と何かに気づいたようで、生徒はニヤニヤとしながら言葉を紡ぐ。

「てことは…センセー、私のルートを選んだんだ?」
「君が僕を選んだのかもよ?」
「私は親に言われてここ来ただけだもん」
「なら、僕は選択を間違えたのかもしれないね…」
「ひどーい!」

こんな他愛もない会話も、あとどれくらいだろうか。
いずれ、生徒は卒業する。
そして、選択肢が溢れる社会に出ていく事になるんだ。

なら、僕は彼女がそれを選べるように、育ててあげなきゃいけない。
上手に生きる見本を、見せてあげなくてはいけない。

「ね、センセーそのルート、クリアできそう?」
「どうかな、意外と難しいかもしれない」
「えー簡単だよ?」

最後に選べる選択肢が、たとえ間違いだったとしても。

4/22/2026, 12:24:13 PM