池上さゆり

Open App

 最後の小学校生活の年のスローガンは「絆」となった。少年漫画の主人公が掲げそうな言葉に、テンションが上がっていたのを覚えている。
 でも、その一年は最悪のものになった。
 絆なんて微塵も感じさせないまま、トラブルが多発した。
 窓ガラスを割ったり、いじめがあったり、授業の邪魔をしたりと散々だった。幸い、私は巻き込まれることはなかったが、それでも苦痛の一年だった。学校生活すらまともに送れない人たちと、どうやって卒業式を行うのだろうと、早い時期から心配していた。小学校で終わりなら、気にしなかったのかもしれない。でも、このメンバーと同じ中学校に進学するのだと考えると、こわいのは卒業式だけじゃなかった。
 私は両親に私立の中学校に進学したいと話した。だけど、お金がかかるからという理由で断られてしまった。裕福な家庭ではないのだから、仕方がないと思ってしまった。
 時間は経って、三学期になり、いよいよ卒業式の練習が始まった。真面目にやっている人の方が少なくて、卒業証書を受け取るだけなのにふざける人が多かった。そのほとんどは、一年の最初に掲げた「絆」というスローガンに感動していた人たちだった。
 結果、最後の予行練習まで悪ふざけは続いた。先生たちもいよいよ注意しなくなった。私は卒業式を休みたかったが、小学校最後の晴れ舞台を期待してくれている両親を裏切れなかった。ため息ばかりもれる最後の登校に悲しくなっていた。もっと楽しい気持ちで、卒業式を迎えられるものだと思っていた。友達と楽しかったねって言い合えるような時間があると思っていた。教室に着くと、真面目に練習をしてきた人ほど、お通夜のような顔をしていた。
 そして、迎えた本番。今までふざけた練習しか行われなかったのが、嘘かのように順調に進んでいった。国歌や校歌を歌うときは誰も替え歌なんてせず、卒業証書を受け取るときもみんなちゃんと礼をして受け取っていた。最後の退場まで、誰もふざけなかった。
 やっと行われた理想の卒業式に私は安堵して、泣いてしまった。まともな形で小学校を終えることができて良かったと、心の底から思った。
 結局、最後の最後まで「絆」を感じる瞬間はなかったが、それでもふざけてばかりだった人たちを成長させるためには大切な言葉だったのかもしれないと思った。

3/7/2024, 10:12:50 AM