よあけ。

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お題:終点

いつかの夜を思い出す。
終点という響きが不気味だからか、何なのか。

 パラパラ、傘を叩く雨音と、ぴちょぴちょ、靴底に引っ付いて跳ねる水音と。青い傘を差していた気がする。水色の長靴を履いていた気がする。アスファルトの上を一人歩いていた。雨に濡れた砕石を街灯が照らし、キラキラチカチカ閃くのに釣られしゃがみこんでいた。吸い込まれそうなほど真っ黒なアスファルトをじっと見ていた。こんなに近い所に宝石はあったんだと、心弾ませていた。夜。
「何してるの」
 優しい声色だった。声が聞こえたから傘を持ち上げた。そこに、確かにあの人を見た。
「ほうせきがあるから見てる。ほら、ほら、キラキラしてるでしょ」
 掴めない物を一生懸命伝えようと、頭を動かし目を動かし。キラキラ、チカチカ、この人の目には宝石が見えているだろうか。こちらばかり見て、ただ、含み笑いをするだけ。
「そうだね、キラキラだね」
 優しいあなたがそこにいる。
「ほら、おいで」
 パラパラ、雨音がよく響いていた。

付いて行っていたらどうなっていただろう。

あの夜は終点に近い場所だったんだと思う。


終点
――終わりとなる所、終着点
――物事が最後にたどり着く地点

8/10/2023, 6:42:18 PM