300字小説
天狗の花嫁
「……あ、またきた」
春風に乗って山桜の枝が恵美に届く。
彼女は小学生の夏休み、山間の祖父母の家に預けられていた。そのとき、いつも赤ら顔の男の子と山で遊んでいたらしい。
『……で、お互いに大きくなったら夫婦になろう、なんて約束したりしたの』
以来、彼女の元には風に乗って季節ごとに花や紅葉、小さな雪だるまが結び文と共に届くらしい。恵美の手が枝に結ばれた文を解く。読んだ顔が花のようにほころんだ。
今日もまた恵美のもとに風が吹く。届いたのは白無垢と綿帽子。
「……ああ、今日が約束の日だったんだ」
恵美が白無垢を羽織り、綿帽子を被る。ごうと強い風が空から吹き下りる。その風に抱き抱えられ、恵美は青空に消えていった。
お題「風に乗って」
4/29/2024, 11:43:02 AM