たねなしみかん

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 愛おしくて、いやに苦しい。
 この気持ちの所在は、きっと僕にしか分からない………………なら、どれだけましだっただろう。
《あいつの一番になりたい》
 そう思った輩が、男女問わず数多いることを僕は知っている。深淵深くから星が瞬いているかのような、人を魅了する妙な輝きを持った瞳と長く生え揃った睫毛。凛々しい眉毛の様子とは裏腹に、薄ピンク色に染まった唇から発せられる、おちゃらけた発言と柔らかい笑い声。身長はあまりないけれど、そこらの屈強な男共より頼りになるその中身。
 その全てに、人として惚れてしまうのだ。
「……、3年間ありがとね」
 ただ廊下ですれ違っただけで、照れたように頬を朱色に染め、そう話しかけてくれた。
 ――あくまでただのいち同級生に、なんて返せばいいのだろう。そう考えているうちに、「じゃ」なんて言って、去っていってしまう。
 このまま別れるのは良くないと思っている。けれど、別にどうしたい訳でもない。
「あ…………」
 ぐんぐん教室に向かっていく後ろ姿に、どうすることもできず伸ばしかけた手をポッケにしまって、僕はひとつの未来の可能性を潰した。


 この経験があったからだろうか。
人を性別で判断しないようになったのは。








♡ もう二度と

3/24/2025, 11:21:45 AM