あの時マスターを行かせなければよかったのだろうか。
それとも無理してでもついていくべきだったのだろうか。
秘匿性の高い会議があるからと、ボディーガードは会議室に入れなかった。
私たちアンドロイドや守衛の人間は、いくつかの重厚なドアを隔てた向こうの部屋に主人が消えていくのを見送った。
会議が終わると告げられていた時刻が近づいた頃、微かに破裂音がした。
人間の耳には届いておらず、アンドロイド達には聞こえるような小さな音だった。
間もなく、銃声が聞こえた。
弾けるように私たちは部屋を飛び出した。
3枚ほどの分厚い扉を破壊しマスターたちがいる部屋のドアをこじ開けると、そこには凄惨な景色が広がっていた。
黒いスーツや白い部屋に飛び散る血しぶき、銃弾、人間だったもの。
床に転がっていたり、机に伏したりしている黒いスーツを着たもの。
赤黒く染まるその物体を主人だと認識した瞬間、各々はそれぞれ自分の主人に飛びついた。
私のマスターは、高級そうな椅子の背もたれにぐったりともたれかかり、右腕を下ろして息絶えていた。
全員、死んでいた。一人を除いて。
会議の主催者だけが、その部屋にいなかったのだ。
あの時、部屋で待機を命じられた時。嫌な予感はしたのだ。
いや、本当はもっと前からだ。マスターが会議があると言って、護衛に私を選んだ時からその予感はしていた。
人間で言う『虫の知らせ』というやつだろうか。
それに従ってマスターを会議に出さなければよかったのだ。
後悔してもしきれない。
主人を失ったものたちは、自害するものもいれば、自我を崩壊させるものもいた。呆然と立ち尽くすものもいる。
私はそのどれでもなかった。帰らなければ。
マスターの可愛い娘が、私たちの帰りを待っているのだから。
私はマスターの亡骸背負って、慟哭する部屋から静かに退出した。
5/15『後悔』
背中を押されたような風が吹き
僕はそこから飛び立った
ふわふわと風に身を任せ飛んでいく
今まで同じ場所にしかいなかった僕に
その光景は新鮮だった
色とりどりの緑や花々が咲いている
僕と同じように風に任せて飛んでいる虫がいる
空は本当はこんなにも広かったんだ
どこまでも広がる世界
どこまでも飛んでいきたい
でも僕には鳥や蝶のように羽がない
風を失った僕は地面にふわりと着地した
コンクリートと呼ばれるそこで
僕は果たして咲けるのだろうか
来年の春 お母さんみたいに
立派なたんぽぽになれるだろうか
5/14『風に身をまかせ』
5/16/2026, 10:09:09 AM