カーテンの隙間から漏れる陽光が眩しくて、ハイネは目を覚ました。時計を見ると、いつもの時間だ。
ゆっくりと体を起こすと、いつの間に帰って来ていたのやら、ヴィルヘルムが隣で眠っていた。寝息を立てる彼を起こさないように、ベッドから下りると、カーディガンを羽織って部屋の外へと顔を洗いに出た。
冬の朝は冷える。震えながら部屋に戻ると、ハイネは着替えを始めた。外出も来客も予定がないので、ゆったりとしたワンピースを手に取った。
袖に腕を通しているとき、
「おはよう、ハイネちゃん」
背後から声がした。物音を立てないように気をつけていたつもりだったが、いつの間にか彼も目を覚ましたらしい。
ハイネは振り返った。
「おはようございます」
彼女の返事は素っ気ない。
「珍しいですね。いつの間にお帰りになられていたんです?」
その素っ気なさに動じることなく、ヴィルヘルムは体を起こすと微笑んだ。
「深夜にね。ハイネちゃんを起こさずに済んだみたいで何よりだよ」
そうですね、と彼女は肩を竦めると、再びカーディガンを羽織った。
「朝食はどうされますか。召し上がられますか?」
「いいのかい?」
「一人分用意するのも二人分用意するのも大して変わりませんから」
着替えを始めた彼を尻目に、ハイネは部屋を出た。
少しでも寒さに対抗できるようにと小走りでキッチンに向かうと、手早く調理を始める。冬のいいところは食材が傷みにくいところだが、それ以外にいいと思えるところはない。
スコーンを焼くために窯に薪を入れるついでに、リビングの暖炉にも薪を入れる。朝食の用意が整う頃には、リビングもほんのりと暖かくなってきた。
「ああ、いい匂いだね」
「用意ができましたよ」
「ありがとう。いただくよ」
ハイネの言葉に彼は席につくと、フォークを手に取った。ハイネは少し遅れて席につくと、焼いたスコーンを半分に割ってジャムを塗る。食べようと口を開けた瞬間に、ヴィルヘルムが言った。
「ねえ、ハイネちゃん」
「……何ですか?」
「幸せって何だと思う?」
彼の問いを無視して、ハイネはスコーンを頬張った。バターの風味と濃厚なジャムの取り合わせがとても美味しい。
さあ、とでも言いたげにハイネは首を傾げた。スコーンを呑み込んで、ハイネは渋々と口を開く。
「幸せかと問われると、首を傾げてしまいますが、それならば不幸せなのかと問われると、違うと感じます」彼女は一旦口を噤んだ。深呼吸をして言葉を続ける。「だから……わたしにとって幸せとは何でもない毎日のことだと……そう思います」
ハイネはそう言うと、優しい微笑みを浮かべた。
1/4/2025, 2:49:30 PM