冷端葵

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刹那

 箱庭の中は慌ただしい。瞬きする暇さえありゃしない。一つ瞬きをするだけで先程生まれた赤ん坊の腰が曲がっているのだから。このパノラマを見守るようにと仕事を与えられたはいいが、千変万化する箱庭のどこを見ればよいのか分かったものではない。浮世は刹那さ、一喜一憂するものではないよ、全ては過ぎ去るのだ。草臥れた先輩が数刻前にそう呟いていた。全くその通りである。指を鳴らして六十刹那が過ぎる頃にはいくつもが死に、いくつもが生まれる。自分が目をかけた子供も、二度瞬きをすれば土に還る。あぁ、諸行無常、生々流転、絶えず移ろう浮世はやはり刹那である。

4/29/2024, 9:20:49 AM