ブランコ
「こんな大人にはなるなよ」
これは平日の昼間にブランコを漕いでる激キモおっさんに言われたセリフである。
ブランコの柵の周りには自分より10歳は離れているであろう子供たちが不満げな顔でおっさんを見ている。
少し離れたところでこのおっさんを警戒している女性たちはきっとこの子らの母親であろう。チラチラとこちらを見てはコソコソ話をしている姿は同じクラスの女子を思い出させた。
僕はあまりおっさんを刺激しないように、けどハッキリとこう言ってみた。
「はい。こんな大人にはならないように気をつけます。」
この試合を見ている観客たちが歓声を上げる声が聞こえた気がした。
「ーー選手決めました!」と実況席も沸き上がっている。さあどうなる、どうなる。自分の息が自然と上がっていくのがわかる。
「ふひひひひひひひっ」
…いや気持ち悪っ
なんだこの笑い方は。
さっきまで興奮を抑えきれないと言わんばかりに大声を張り上げていた観客も落胆した様子だ。
「いや、けどキミ、正直言ってさ、もう無理だと思うよ。僕は結構キミのこと同類だと思っちゃってるから。ふひひひっ」
このおっさんは何を言っているんだ?
僕とこの汚いおっさんが同類?そんなわけないだろう。
「僕とおっさんは同類」
この発言には流石の僕も怒りが湧いてくる。
僕は決めつけられるのが大嫌いだ。そうやって大人は僕のことを決めつけてくる。成績だの日頃の行いだの、そんなもので僕の全てを知った気にならないでほしい。
「…なんで、なんでそんな決めつけてくるんですか…僕は、僕は…」
僕は少し泣きそうになってしまった。
「あ、怒っちゃった?ごめんね?けどさ、こんな時間に学校も行かないでこんなところにいるキミと、仕事もしないでここで暇つぶししてる僕、結構似てると思うんだよね。けどさ、けどさ、キミはまだ子供だし未来があるじゃん?だからさ、からさ…」
捲し立てるようにそういうおっさんはどうやら焦っているらしい。おっさんの額には汗が滲んでいる。その焦り具合にちょっと笑ってしまいそうになる。
……おっさんは、いい人なのかもしれない。
「……そうですね。僕、考えすぎてたかもしれません。もうちょっと気楽に生きてみます。……ふひっ」
ブランコの柵の周りには子供たちが不満げな顔で少年とおっさんを見ている。
今日もこの公園では彼らがブランコを占領している。
2/1/2024, 2:33:12 PM