喜村

Open App

 仕事を辞めた。
大型連休が終わったと同時に、仕事に戻ったがやる気が出ず、そもそも仕事自体に嫌気もさしていたので、仕事を辞めた。
これが所謂、五月病、ってやつなのかもしれない。
 新卒で入って、たった一ヶ月程度で辞めてしまった。親にはまだ話せていない。
いつも通りにお弁当を渡され、いつも通り家を出る。でも、仕事はしていないので職場はない。

 俺はため息をつきながら公園のベンチに腰かけた。働かなくてもお腹は減る。渡されたお弁当を昼時にもぐもぐと食べ始める。
 昼時と言っても、もうすぐ二時。小さいお子様達が野原を元気に駆け回っていた。
 俺にもあんな時期があっただろうに、親に申し訳ない。
 走り回る子どもの手には、タンポポが握りしめられていた。綿毛で、走る度に風のなびくように散っていく。
 あんな自由に風にのってどこかへ飛んでしまえたら。

 --いや、待てよ。

 今の俺は、会社を辞めたニート。
どこへにも転職できる綿毛の時期ではないか。
マイナスに考えないで、学校でみんなの流れで就職先を選んでしまったが、今は自分の好きな仕事につけるではないか。
 俺はベンチから立ち上がる。膝にのせていたおにぎりが漫画のように転がった。
 そうだ、俺は綿毛だ。風に身をまかせよう。
 春風はもう夏の空気を含んで温かく強く俺を後押しした。目の前を軽々と綿毛が舞っていた。


【風に身をまかせ】

5/14/2023, 10:34:40 AM