悪役令嬢

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『終点』

「えっ……れ、連載終了……?」

両手に持った月刊リポンを見つめ、
凍りつく悪役令嬢。彼女の指先が、
震えるように紙面に触れる。

いつも楽しみにしていた漫画の最終ページには、
「ご愛読ありがとうございました!」という
短い文字が記されていた。

人生にも物語にも、いつかは『終点』という
名の終わりが訪れる。
しかし、それはあまりにも唐突にやって来た。

「どうして……掲載順位は決して悪くなかった
はず。主人公たちの愛の行方、迫り来る他国の
脅威……これからが佳境だったというのに!」

悪役令嬢はショックのあまり、
その日一日寝込んでいた。

「何かございましたか」

いつもなら喜んで口にする紅茶も、
クロテッドクリーム付きのスコーンも
召し上がらない悪役令嬢に、
セバスチャンが心配そうに声をかける。

「好きだった作者様のお話が
もう読めなくなってしまいましたの」

長期休載なら、またいつか再開してくれる
という希望が抱ける。だが、連載終了。

単行本化もしていない。写真にも
電子の海にも残っていないのだ。

「主、形あるものだけが全てではありません」

セバスチャンはこんな話を語り始めた。

「先日ご覧になった『タイタニック』
の映画を思い出してください」
「ええ、とても感動的なラストでしたわ」

「ジャックはタイタニック号と共に海底に沈み、
名前さえ記録に残りませんでした。しかし、
ローズの心の中で彼は永遠に生き続けたのです」

「……」

「主の心に刻まれた物語は、決して消えることは
ありません。あなたがその作品を愛し続ける
限り、その世界はあなたの中で生き続けます」

執事の言葉に、悪役令嬢は瞳を揺らしながら
静かに目を閉じた。
終点とは即ち新たな始まり。
彼女の想像の中で、愛しい登場人物たちが
再び息づき始めたのであった。

8/11/2024, 6:15:48 AM