「あれ?先客が居たんだ♪」
人気の少ないビルの屋上,見下ろせば車や街灯の光が満面の星空と思えるほど輝いている。
僕は今日,このビルから飛び降りようとしていた…いわば自殺である。
「君は誰?…もしかして止めに来たの?」
フェンスに手をかけ,突然現れた彼女を怪しく思い,顔を顰めながら問いかける。
すると,彼女は焦った様に首を振り,
「えッ?違うよ,私はたんにこのビルに来ただけ」
そう言うとほほえみながら僕の方へ歩み寄り,フェンス越しに周囲を眺め,つぶやく。
「私さ,夜景が好きなんだよね♪きれいだし嫌なこと全部、忘れさせてくれる。」
彼女がそばに来てようやく気づいた,彼女の体は小枝のように痩せており,健康体には見えぬということに。
「…病気なの?」
言わぬべきだったか,その言葉を口にした途端彼女は驚いた表情を見せ”なんで病人が外でてるんだとか思った?”と悲しそうにつぶやき,恐る恐る僕の顔を見る。
「…別に」
どうせ死ぬんだから今更気にしても無駄だろう…,そう考えれば興味がわかず素っ気なく返す。
「そっか…」
僕の反応を見,彼女は安心した様子で小さく笑みを浮かべ,僕の手を取り,
「ねぇ,私と一緒に来てくれない?君と逝けば怖くないと思うんだ」
彼女と過ごせる時間がまだ続くのならそれも悪くないだろう。僕は”いいよ”そう一言だけ言えば,彼女の手を強く握る。
ほんの少しの勇気を振り絞っただけで,僕の心と身体は未だかつてないほど身軽になった気がした。
今日,僕は名も知らない少女と,ともにビルから飛び降りた。
9/19/2023, 5:14:35 AM