窓越しにしとしとと雨の粒が涙の跡のように濡らしていきましたが、しばらくすると雨がやみ、光が差し込んできました。
気づけばあなたの温もりばかり考えていた私は左手の薬指の指輪を見ていました。
寝ているあなたを見つめながら、
「ねえ、今日は何時に帰ってくるのかしら」
心のその問いがあなたの肩にのしかかるぐらいだったら、無言でいた方がよっぽど良いのです。
あなたの顔の輪郭を指でなぞって、長いまつ毛やシャープな顎を辿っていると、
「ここは良いのか?」
目を覚ましたあなたに手を掴まれてあなたの唇を触りました。
「え」
「欲求不満なのか」
「いいえ、別に」
咄嗟に素直ではない言葉が口をついて出てきました。
でもニヤリとしているあなたに、
「素直になってくれ、俺の奥さん」
と言われてぎゅっとされて、恥ずかしくなってしまいました。
そうして、あなたが浴室に行っている間にあなたの匂いが染みた寝間着を吸い込んでうっとりとしている私はきっとおかしいのでしょうね。
このことはテーブルに置いた花瓶の昼顔しか知りません。
「熱っ」
調理中、フライパンで指を火傷してしまい、流水で冷やしていました。
エプロンを着て朝ごはんを作っているところで、
「まだ、慣れないのか?」
「ええ、手際が悪くてごめんなさい」
あなたに微笑むと、
「別に良いんだ。きみのペースで」
と言いながら、傍に来て少し波打つ髪を一房、口元に持っていきました。
「顔が赤くて熱いぞ、大丈夫か」
「ダイジョウブです」
左手の指輪を見ているとまだまだ不思議な心持ちで、いっぱいになります。
本気の恋は一人では始められなくて、この広い世界で出会って恋をして指輪をしている自分の薬指は奇跡に恵まれたのでしょう。
9/12/2024, 10:54:16 PM