ただの社畜

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屋敷のドアを潜った瞬間広がる外の世界に、はんのうは様々だった。

ある者は屋敷から出られたことを馬鹿みたいに喜んで、
ある者は突然終わったループに唖然として。
またある者は…

私は愕然と膝を地につけた。
お揃いの大切にしていた洋服が汚れることもかまわずに膝をつく。

最後の最後でお姉様に庇われて生き残った。
お姉様が赤く染まり冷たくなっていく姿をみて数々の記憶が溢れ出してくる。
実際に目の当たりにしたはずがないのにやけにリアルな記憶。
色々な方法で私の為に死んでいくお姉様。

毎回決まって、満足そうな顔を見つめる私。
一緒に屋敷を出られた記憶がない。

そして私は毎回、お姉様が死んだ後に記憶が戻ってくる。
私の全てが終わった後に、私の全てを失う瞬間だけを思い出す。

そして私は決意する。次こそは。
絶対に次にゲームでは2人で屋敷を出る。
そう強く宣言し、屋敷を出て意識をがとびまた新しいゲームが始まる。

今回もそうだと思ってた。
きっとそうだと。そうじゃないと許さないと思っていた。

確かにGMさんは何度か『今回こそはこの屋敷から出られるかもしれませんよ?それじゃあ、今回も頑張ってください』と言っていたような気がする。

でも。だって。お姉様が、、、

「あれ?この屋敷こんな感じだったかな?」
「確かに。もっとまがまがしくなかった??」
「やっとループから解放されたってことでしょ」
「え?ループってなぁに?」

グルグル考えて固まっていた私はその声で反射的に後ろを振り返った。

「あぁ」

意図せず口から声が漏れる。

しかし、瞬間でハッとし、屋敷に駆け戻る。
待って!屋敷の中にはまだお姉様が!!
たとえ死んでしまったとしても、、

しかし、屋敷の中に入った私はもう一度膝をつくことになる。
勝手に目から大量の涙が溢れる。

屋敷の中には何も無かった。
本当に何も無かった。
至る所にこびりついていた血痕も、
血特有の生臭い匂いも、
あたりに充満していた独特な雰囲気も、
参加者が使用していた役職専用の道具も、
耳に響く低い音を鳴らし続けていた鐘も、
毎日正確に議論する時間を測っていたタイマーも、

そしてお姉様のご遺体も。

あああぁぁぁぁぁあぁああ。
呼吸がままならない。
意識が遠のく。
自我を保てない。
涙が止まらない。

あぁ。どうして今回で終わってしまったの?
だって。次こそは。次こそは!!

……姉様……

独りで絶望している私を呼ぶ声が聞こえた。
私が間違うはずもないお姉様の声。
最愛のお姉様の声。
なんど世界が繰り返そうとも決して揺るがなかった親愛。

「呼ばれてる。お姉様が呼んでる」

そう独りで口走り意識が向く方へ小走りで向かう。

もう体力も気力も限界でフラフラしてたけど、
ようやく足が止まった場所はゲーム中お姉様が使っていた部屋だった。
私の隣。
夜、部屋から出ることは禁止されていたけど、壁越しに感じる確かな存在。

お姉様の部屋には初めて入る。…かな?
少なくとも今の私は初めて入る。

いないとわかっていても律儀に、できるだけお淑やかにノックをする。

屋敷にくる前までは当たり前に返ったきていた私を歓迎は、当然のように返ってこない。
返ってきたのはただの残酷なまでの静寂だった。

それでも、、

「お姉様。ジェシカです。…失礼致します」

できるだけ平然を装って静かに部屋に入る。
私の部屋とは鏡合わせのような配置の部屋。
でも、お姉様の性格がでている部屋。

「ふふ。綺麗好きで整理整頓を欠かさないけれど、所々雑さが残っているのは相変わらずでしたのね」

しばらく感じられていなかった、お姉様が確かにここに存在していたという事実に不謹慎ながらも喜びを感じてしまう。

「お姉様。私はなぜここに呼ばれたのでしょうか?」

いつもより穏やかな声を意識しつつ、なんとなしに虚空に向かって質問をしてみる。
まぁ、これでお返事が返ってきたらとても嬉しいのです…が…?

ほんのり感じるお姉様の気配。
いつでも。どんなときでも私を包みこんでくれた大好きで安心できる匂い。
そんな温かいものがふんわりあたりを漂う。

目を閉じてその全てを感じる。
できるだけ全身で。それ以外の情報を強制的にシャットアウトする。

しばらく堪能したあとに目をあけ視線の先を確認する。
一番お姉様を強く感じたのは、この机から。

各部屋に完備されている家具の一つ。
アンティーク風の小柄な机。
私は自分の部屋にあった机はあまり使わなかったが、お姉様の机は結構使ったような形跡があった。
実際にその机に近づき観察していると、隠すようにちいさな引き出しがついていた。

お姉様に心の中で断りながら引き出しを開けると、一冊のノートが入っていた。
それは、この屋敷に来る前にお揃いで買った日記帳で。
お姉様はとてもお気に召されて、毎日大事に使っていた。
私は。どうだったかな?たしか、お姉様とのお揃いを使うのが勿体無くてお姉様宝物BOXに大事に保管していた気がするわ。

なんとなく捲ってみると、最初は屋敷に来る前のありふれた。今となっては恋しい思い出が綴られていた。

とりあえずパラパラと捲っていくと屋敷にきてからの記録も残っていた。

驚きで思考が止まりながらも、勝手に目が文字を読み、手が勝手にページを捲る。

最初は混乱しながらも屋敷や参加していた者たちへの考察が綴られていた。
だが、次第にそれは悲痛な叫びへと変わっていた。

助けて。怖い。もう終わりたい。何度も姉様が死んでしまった。苦しい。誰も前のことを覚えていない。恐い。誰か。もう無理。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!

私が気付けなかったお姉様の本心。
きっと私が一番に気づいてあげないといけなかった。
いや、気づかないといけなかった。

止まっていたはずの涙がまた溢れてくる。

不甲斐ない自分が、何も知らなかった私が、能天気に笑っていた自分が。

憎い。ひたすら自らが憎かった。

そしてある時を境に日記の雰囲気が変わった。
弱音を吐かなくなったかわりに、私のことが沢山書かれるようになった。

今回は最後に猫又で狼持って行って生かせられた!
今回は藁人形で無理やり生かせた!
今回は姉様が赤ずきんだったから手荒になっちゃった





あぁ。お姉様。あなたは確信犯でしたのね。
もう全てを諦めてゲームとして飲み込んだ。
私が思い出していなかったものも沢山あり、それほどお姉様は1人で果てしないループを経験していたのですね。

そして最後のページに書かれていた私宛。
私だけに宛てたメッセージ。

「ジェシカ姉様へ。
 これは見ているってことはきっともう私はそこにはいないのでいしょうね。
 えへへ。書いてみたかっただけ。これで隣にいたらどうしよう。
 あのね、私は沢山ジェシカと過ごせて楽しかった。
 だって普通では考えられないほどの時間を共にしたんだよ!?
 凄いよね。
 あのね。多分、本当に私は今あなたの隣にいないと思うの。
 うん。双子パワーね。わたしと姉様だけの以心伝心ね。
 分かってた。最初から。この1人ゲームを初めてから。
 ごめんね。きっと辛いと思う。
 でもサンドラもジェシカも否定しないで。
 わたし達はよく頑張ったよ。

 あのね。うん。もう言いたいことは直接言ったから言うことないや!覚えてないかもだけどね。
 姉様もあの何とかBOXからお揃いで買った日記帳引っ張り出して姉様も書いてみてね。
 んで、それがいっぱいになって、満足したら埋まった日記帳とわたしのこのノートを一緒にわたしの所まで持ってきて。
 
 埋まるまできちゃだめだよ?わたしと姉様の約束。
 破ったら絶交だよ?いいの??
 嫌だよね!じゃ、頑張って。
 ずっと大好き。」

ふふ。ははっ。

「やっぱり敵わないなぁ。うん。お約束ねお姉様!」

お姉様のノートを手に取り部屋をでる。
扉を閉じる前にもう一度振り返りお姉様の部屋を見回す。
そしていつもお姉様にむけていた、自分が思う最大限のとびきりの笑顔を作って明るく別れを告げた。

「それじゃあ、少しの間お別れですわ。
 ずっとずっと大好きですわ。
 ありがとう。…いって参ります!」

さぁ、早く自分のお屋敷に帰って、私の日記帳を始めなければ!




お題「私の日記帳」
ジェシカ視点

ジェシカ:生
サンドラ:死

サンドラが記憶を継いだままループを繰り返していて、それを綴った日記を発見し読んだジェシカの話。
普通(ではない)、墓場や勝利した瞬間に戻ったり一部を思い出したり?
まぁ、記憶がある時点で異質。
現時点記憶継いでいる者⤵︎
サンドラ、ロディ(互いに知らない)
ジェシカはサンドラが死んだ瞬間フラッシュバックで記憶が掘り返される。

8/26/2024, 3:44:57 PM