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言葉の自転車に乗って、書物を旅する。

旅はいつも、潮騒の様な音を立てる森から始まる。

吹き抜ける風に煽られた葉は、荒波のような音を立てている。それに呼応するかのようにチラチラと光が乱舞する。

荒波の中に隠れた声を聞いただろうか?
乱舞する光は、何を照らしていた?

ここにおいては、全て必然。
物語の主の作意は、もうすでにある。

取りこぼさず進む為には、一旦言葉の自転車を降りて歩くこと。その際、言葉の自転車を押すのも忘れずに。

言葉の自転車を押しながらのんびり歩いていると、見落としがちなものを見つけられる。
例えば、ほら。
あそこの樹の下にある花なんて、実に意味深だ。
描写が殊更な時は、そこに伝えたい意味が隠れていたりする。
愛でるついでに言葉を頂戴しよう。

街の入口が見えたなら、言葉の自転車はここに置いて、主人公を訪ねよう。

主人公は、物語のガイドだ。

例外はいくつかあるが、大抵出ずっぱりなので、すぐ見つかる。

無事見つけられたら、ガイドに続く旅行者になっても良いし、主人公と一体化するのもまた良い。

主人公との旅を通して、物語の概要や沢山の経験、感情を得られたら、次はサブキャラクター達に目を向ける。

彼らは彼らで、主人公にはない魅力を持っている。含蓄ある言葉も彼らから得やすい。
彼らの言葉を拾い上げ、いくつかを自分のお土産にしよう。

それが終わったら、街の入口へ戻る。
言葉の自転車の前籠に、手に入れた言葉達を入れる。

何故入れるかって?
言葉は言葉を呼ぶものだからさ。

さあ、準備が整ったならば、言葉の自転車に乗って旅といこう。行き先は、物語の裏側。

主人公達が通った道の脇。さり気なく通り過ぎた景色。賑わう街の裏路地。何気ない言葉。

主人公との経験やサブキャラクター達の言葉を携えた自転車でいくと、物語の中にあるいくつかの言葉達が光を帯び始める。

その言葉を拾い集め、繋げていくと──ほら。

「見ーつけた」

物語の裏側に隠れていた──素敵な秘密。


今日も私は、言葉の自転車に乗って書物の中を旅している。
物語の言葉の裏に隠れた、素敵な物を見つける為に。

8/14/2024, 2:30:58 PM