kiri

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4月9日、入学式。
その人は桜の木の下、体に合わないブカブカの制服を着て立っていた。
色素の薄い髪の毛に木漏れ日が揺れ、その儚い雰囲気に私は息を呑んだ。あの時トクンとなった心臓の音がなんだったのか、当時は分かっていなかったけれど、きっとあれは恋の音だったのだと思う。

式が終わり、クラス名簿を見ながら教室へ向かった。隣の席に座る君を見て、私は声をかけずにはいられなかった。
「あのっ…」
自己紹介とか、質問とか、話せることなんてなんでもあったはずなのに、言葉にできなかった。

話しかけておいて黙る私に、君は優しく笑った。
「一年間、よろしく。」

___言葉にできない___

4/11/2023, 1:53:30 PM