「貴方はいいわね、綺麗になることが決まっていて」
ケースの中でキャベツの葉を食べる幼虫に声をかける。
「そうでもないよ。ご飯を食べられなければ大きくなる前に死んじゃうし、サナギのうちに鳥に食べられることだってある」
大きな葉っぱを飲み込むと彼は私に話しかけてきた。
「それでも大きくなれば綺麗だって持て囃されるでしょ?」
「とんでもない!うまく成虫になれたって柄が綺麗に出なきゃみんなに嘲笑われるだけさ!」
小さな手足を動かして彼は抗議する。彼の表情は分からないはずだが、私にはとても怒っているように感じた。
「そっか、貴方も大変なのね。ごめんなさい」
「分かってくれたらいいんだ。それに僕にとっては君たちニンゲンの方が羨ましいね」
「あら、どうして?」
彼の意見に首を傾げ尋ねる。
「オカネというものがあればいくらでも姿を変えられるんだろ?」
「そうね。でも、お金で変わった身体は本当の自分じゃないと思う人もいるわ」
「そうなのかい?繁殖できるのであれば手段なんて関係ないと思うけれど」
「人間も複雑なのよ」
「ふーん」
私の話を理解していないであろう彼の言葉を聞きながら、冷めた紅茶に口をつけた。
「ところでキャベツのおかわりはどうかしら?」
「喜んでいただこう!」
将来がどうであれ大きくなれなければ綺麗もなにもないからね!
小さな幼虫は胸を張ってそう言った。
5/11/2023, 9:12:55 AM