ミミッキュ

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"終点"

次は、終点──
という車内アナウンスで気がついて、当たりを見渡す。
「っ…、ん?あれ、なんで俺…。」
ここは、電車の中?知らない車内、知らない車窓の景色に頭が混乱する。
「確か、俺は──」
グラファイトに負け、CRに戻るなり免許剥奪を言い渡され病院を飛び出して、その後ビルのガラスに映る自分の姿を見て…なんだか、誰かに「来て」と引っ張られている様な気がして…。ダメだ、ここから先の記憶が曖昧で何故自分が電車に乗っているのか分からない。一先ず、現状できる事は終点で降りて状況を整理する事だ。
一旦思考を止めると同時に電車が止まり、扉が開いた。まず自分が今どこに居るのか把握しなければ、と座席から立ち上がり電車を降り、駅の周りの景色を見る。
「田舎町か…?」
涼やかな風が頬を撫で、見渡す限りの緑が広がっていた。遠くで鳥のさえずりも聞こえる。駅を見渡すと駅名の書かれた看板を見つけ、ここが何処なのか確認する。
「えっと…はち、?。なんて読むんだ?えっと読み…やそ…いな、ば?」
看板には"八十稲羽"と書かれていた。
「聞いた事ない地名だな…。」
どうすれば良いか…、一先ず自分のいる地名は分かった。だが地名が分かっただけで、何処の町かまでは分からなかった。次にやる事は駅に入って、帰りの電車の時刻を確認だ。そう思い立って駅に足を向けて歩き出す。駅に入って駅員さんに話し掛ける。
「あの…。」
そう声を掛けると「はい?」とゆったりとした返事でこちらを向いた。
「えっと、帰りの電車の時刻を知りたいんですけど…。」
そう言うと駅員さんは「ちょっと待ってね」と言い、小さな引き出しから時刻表を取り出して「はい」と俺に渡してきた。
「ありがとうございます。」
お礼を言うと時刻表に目を通す。今の時間は…と無意識にポケットに手を入れると固く冷たい感触があり取り出す。良かった、スマホは持って来ていたようだ。反対側のポケットを触るとこちらも固い感触があったので取り出すと財布だった。財布も持ってきていたようだ。とりあえず安堵して、スマホに現在の時刻を表示させて、先程貰った時刻表と照らし合わせる。帰りの電車が来る時刻は今から大分後の時刻だった。
「マジか…それまでどうすっかな…。」
だが、また何かに引っ張られている様な感覚がした。それは何者かに「帰るな」と言われている様で、怖くなって自分の肩を抱き、身を震わせる。少し落ち着いた所で改札を出て、折角だから観光がてら見て回ろうと思い、駅前に出る。
と、駅前に1人の少年がたっていた。見た目は高校生くらいだろうか?銀色の綺麗な髪がそよ風になびいてキラキラと太陽の光を反射していて、その眼は駅前にそびえ立つ大きな木を見上げていた。地元の人か?と声を掛け聞いてみる。
「あ、あの。」
少年に近づいて声を掛けるとこちらを向いて
「はい。」
と聡明な返事をした。身長は俺より幾らか低いが背筋をピンと伸ばした立ち姿をしていて、身長差を全く感じさせない凛々しさと、動きから礼儀正しさを醸し出している。
「どうしました?」
優しくそう聞かれ、答えようと口を開くが出かかっていた言葉を飲み込む。誰かに呼ばれた気がしてここに来た、なんて誰が信じる?しかも、俺は24だぞ?そんな事言ってしまえば不審者か何か扱いされるのがオチだ。どう答えるのが正解か悩んでいると、少年が空を見上げて
「雨が降って来そうなので、一先ず場所を変えましょう。」
移動する事を提案してきた。空を見上げると今にも降り出しそうな暗い雲が空を覆っていた。
「あ、はい。」
そう頷いて移動するのを了承すると「では、ついて来てください」と踏み出した。俺は彼の1歩後ろを歩いてついて行く事にした。

8/10/2023, 11:05:19 AM