いろ

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【突然の君の訪問。】

 日曜日の午前中。洗濯機を回しながら、掃除機で部屋の中を綺麗にしていく。そうしていれば掃除機のうるさい排気音に紛れて、インターホンが軽やかな音を立てた。
 おかしいな、宅急便が来る予定は特になかったと思うんだけど。掃除機を止めてインターホンのディスプレイを覗けば、それはもう良い笑顔で君が手を振っていた。
 無言で玄関へと向かい、ドアを開ける。ニコニコと笑う君を室内へと招き入れながら、私はこれみよがしにため息を吐いた。
「もう、連絡もなしに来るのやめてよ。掃除中だったんだけど」
「ごめんね、なんか来たくなっちゃって。はい、これお土産」
 渡されたドーナツ屋の包みからは、甘い香りが漂っている。やれやれと肩をすくめながら、私はキッチンと向かった。
「わかってると思うけど、ロクなおもてなしはできないから。とりあえずそこ座ってて」
 リビングのソファに君を座らせつつ、戸棚からマグカップを取り出す。私としては甘いドーナツにはコーヒー派なわけだけれど、ここは君の好みに合わせて柔らかい甘さのミルクティーを淹れてあげよう。
 前触れもない突然の君の訪問は、君が疲れきっている証。他人に弱音を吐くのが大の苦手な君の、精一杯のSOS。だから君がここをいきなり訪れた時には、とびっきり甘やかしてあげるって決めているんだ。
 君のためだけに用意してある茶葉をティーポットへと移しながら、私はそっと微笑んだ。

8/28/2023, 9:52:14 PM