つぶて

Open App

施設の最上階で君はじっと空を見ていた。
やっと、辿り着いた。
僕はよろめきながら君の元へと歩を進める。脚が言うことを聞かない。返り血の着いた服がやけに重い。

「何をしている! ここはもうダメだ!」

叫ぶ声が掠れた。君は逆光の中、背を向けたまま言う。

「いい天気だわ」
「見ただろう? 空からおぞましい液体が降り注ぐのを。あれを浴びた奴らはみんな壊れた。人間でなくなるんだ! そのうちここも」
「とっても綺麗」
「……なんだって?」
「紫色の空、黒い太陽、紅い雨。この世界の裏側みたい。いい天気だわ」

君は、何を言ってるんだ?
天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、僕と君が生き延びるために必要な、何よりも優先すべきことで。

「本当に、いい天気だわ」

君は空を見続けている。
ああ、そうか。君はもうすでに……。
僕は君の前に回り込む。
その壊れた瞳に涙が落ちた。

5/31/2023, 1:39:10 PM