[後悔]
「先輩、後悔してることありますか?」
「あるけど、その手に持ってる怪しい箱には頼らないからな」
「えっ。なんでですか」
彼女は驚いて、小さな箱を胸に抱いて身を引く。
「見るからに怪しいから」
「そんな! まるでボクがいつも変なもの作って先輩を困らせているかのような言い方ですね?」
「実際その通りなんだが?」
すぱっと打ち返すと、彼女は「むう」と小さくうめいた。
「しかし、ボクはめげません! 今日のはいっとう特別ですよ!」
そう言って胸を張りながら箱を突き付けてきた。
「こちら、先輩の後悔をクッキーにしてくれます。ちょっとした悩みならバタークッキー1枚程度。その日の後悔をおやつとして食べさせてください」
「お前が食うのか」
「先輩、この箱から出てくるクッキー食べたいんですか?」
「……」
後悔というものから生まれた得体の知れないものを食べるか、それを彼女に食べさせるか。正直、どっちも選びたくない。
そもそもこの話に乗ってはいけなかったのだと後悔した瞬間、箱の中からことりと小さな音がした。
5/16/2023, 4:21:31 AM