しろ

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これはある旅の途中の一夜の物語である。

元気のない彼女がそこにいた。どうしたの?と声をかけてみてもうん…と返されるばかり。無理に聞くことはせずそっと横に座った。黙って俯いたままの彼女。いつのまにか頬には涙の滴が流れていた。いつものまっすぐな彼女とは違い何か思い詰めていたような、そんなように見えた。気がつくと僕は彼女を抱きしめていた。わからない、でも今はそうすることしかできなかった。こんな彼女を見るのは初めてだ。

「何があったかは無理に話さなくて大丈夫。僕、きっと何も知らないんだと思う。踏み込んでいいのかもわからないけど、だからもっと早く気づいていればよかったなって思う。今はこのままでいいよ。」

言葉を間違えないように1つ1つ丁寧に話した。話終わった後、彼女は僕をきつく抱きしめて再び泣いた。僕はただただ抱きしめ返していてあげることしかできなかった。まだまだ知らないことばかりだ。彼女はどれだけ前にいるのかな。僕なんかよりきっとずっと考えて抱え込んで先を見ているのだろう。知りたい。彼女の涙を。頼りない僕だけどいつか君に寄りかかってもらえる存在になりたい。いや、なってみせるんだ。
窓から差し込む月明かりが2人を強く明るく照らしていた。


「涙」

3/30/2025, 5:28:32 AM