あやや

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 白み始める空が、眩しかった。陽が昇り、世界を照らして、この砂漠の藍色に染まった砂は美しい黄土色へと姿を変える。しかし白み始めのこの時だけは、砂は藍色を影として、白色を光りの当たる部分として立ち現れる。
 なだらかに波を描くその一帯は、海のように、母たる土地のように、目いっぱいを埋め尽くし、人間を圧倒する。
 ああ、ここは美しい地。神秘の地。人を圧倒し、上から踏みつける神の地。
 人はそれを侵害し、木の棒で「ここからは僕のだ」と主張する子供のように、集落を作った。そこで幾人もが不幸に死に行き、幾人もが寿命を全うする。
 
 少女はその集落の、神の膝で過ごす人間のうちの1人だった。
 白み始める空を家族と共に見て、生きるためにと働き、稀に来る雨に神の慈悲だと頭を垂れた。
 穏やかな地だ。幾人が死のうとも、荒涼とした地が広がっていれど、それは安寧であった。繰り返す日々、笑い合える誰かがいること、飽和しているのに何かが足りぬ感覚。全てが安穏だった。
 少女はその安穏から、足を抜いてしまうことを選んだ。彼女はただ、太陽を見たかった。上から少女を照らす美しきそいつを、少女はその目で見つめ、その美しさに打ちひしがれたかった。その美しさを間近で見て、人生の最高を経験したかった。
 全ての制止を振り払い、全ての批判を退けてみせ、彼女は持てるだけを持って、その平穏を後にした。
 
 それから旅を続けている。飢餓に喘ぐ。脱水に悶える。それでも太陽を見たい。昇りゆく太陽、沈みゆく太陽、その太陽に触れられるのならば、それはどれだけの幸福なのだろうか?
 夢をみる。夢を抱えて少女は、今日も荷物を抱えて、砂漠を歩き始めた。
 太陽に向かって。

8/20/2023, 12:32:49 AM