湯船遊作

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暗がりの中で

土倉に閉じ込められて何時間経ったのだろうか。
そろそろ限界である。
僕はチョークで地面に父の似顔絵を書いていた。似顔絵にイタズラするためである。
元はといえば、父がテストの点数についてアレやコレやと必要以上に文句を言ったからだ。
あの時の僕の気持ちを、貴方はしらないだろうけどね。
父よ、僕は怒っていたんだぞ。頑固なアンタにゃ何を言っても分かんないでしょうけど、僕は怒ってるんだ。
居間に正座した僕の正面。ガシガシと叱る父の背中の掛け軸。
「大切なものだ」
父さんはいつかそんなことを言ってた気がする。
父さん。僕も大切なものがあるんだ。
それは例えば学校の宿題を忘れたら無くしてしまうくらいに脆くて、触れられると毛が逆立つくらいに大切なものだ。
それを貴方は侵犯したんだ。
でも父さんには分からない。僕の怒りが、分からない。
だから教えてやるんだ。
そうして僕は掛け軸を破いて、この土倉に閉じ込められた。
さて、そろそろ出来上がるかな。
最後に眉を書くと、床には父さんそっくりの似顔絵が出来上がった。
掛け軸破いても分からないならこうしてやる!
「おりゃ! くらえ!」
僕は小便した。
僕は悪くない。
だって元はといえば、テストの点数で僕を必要以上につついたのは父さんなんだから。
掛け軸を破いた僕の怒りに気が付かないのは父さんなんだから。
そのときだった。
「言いすぎた。……蕎麦でも食いに行かないか」
父さんの声と共に倉の扉がそっと開いたとき、僕のそれはまだズボンの外だった。

10/28/2023, 1:35:03 PM