ちる

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【初恋の日】

初恋 とは、少し違うけど。

高校入試の日、14歳の私はセーラー服と一緒に
緊張を身に纏って凍える受験会場にいた。
面接の順番まで、あと三人。
この緊張を脱ぎ捨てられるのなら、もうとにかく早く終わって と
祈るように俯いたとき、トントンと右の肩を誰かが叩いた。
振り返ると、後ろの席には男の子。
座っていても背が高いってわかる。
目が合った私に、『襟』とひと言だけ囁いたのが貴方だった。
理解が追いつかず、ポカンとする私のセーラー服の襟が折れていたのを
貴方が無言ですっと直して『いってらっしゃい』と笑ったとき
私の受験番号が呼ばれて、私は慌てて「ありがとう」と呟いてその教室を出た。

合格発表は誕生日だった。

15歳の春。私はセーラー服からブレザーに着替えて、入学式の会場で貴方の隣に立った。
夏。仲良くなったクラスメイトのお誕生日をお祝いしながら、貴方の誕生日が私と同じだと知った。
秋。部活動に力を入れた貴方は、1年生で唯一のレギュラーとなって私たちを連れて全国大会へ。
冬。進級するための課題が終わらなくて、深夜に電話を繋いだまま作業した。

そうやって、そのあとも卒業まで私たちは同じ教室で過ごした。

『連絡してもいい?』卒業式のあとそう言った貴方に
「どうぞ」と私は笑って、そのまま手を振って別れた。

毎日会っていたのが嘘のように、年に1〜2回の連絡でなんとなく繋がった数年間。
だけどその後は、まったく連絡をとらなくなった。

そのまま何年も月日が流れて
ある日『元気?』の3文字だけが貴方から届いたとき、返信に少しも迷わなかった。

空白を埋めるみたいに食事の席でいろんな会話をした。
その日は私たちの誕生日だった。
乾杯とグラスを傾けて、歳とったね って目を合わせて笑った。

帰り道。
『初めて会った時、覚えてる?』と聞く貴方に、「あの時、ありがとうってもっとちゃんと言いたかった」と笑ったら
貴方は目を丸くして『今まで一度もその話しなかったから、忘れてるのかと思った』と驚いて。
その顔を見て、私はもう一度笑った。



遠回りしたね。
好きって言えなかったんじゃない。
たぶん私も貴方も、好きなんだって気づけなかった。

お店を出たら、外は暗くて
名ばかりの春の夜は、まだまだ寒くて。
私の手を握る隣の貴方を見上げたら、寒がる私に『すぐ春が来るよ』ってあなたが笑った。

5/7/2026, 2:17:56 PM