10:さよならは言わないで 11
「おかあさん!おかあさん!おいてかないで、おかあさん!いや、いや!」
世界が全部ぼやけてしまって何も見えないのに、手を伸ばすのが辞められなかった。
頭のどこかでこれが夢だという事が理解できて、夢の中だからか自分の意思とは関係なく体が動くのが酷く怖くて、焦燥感ばかりが増していく。
私の体がどれだけ手を伸ばしても輪郭がぼやけた女の人は歩くのを辞めてはくれなくて、それなのに数歩進む度に悩むように立ち止まりかける。
私を抱きしめて抑える人も、きっと暴れている拍子に腕や足が当たって痛いだろうに決して離さない。
頭はずっとキンキンと痛んで、鼻は啜る度に奥が痛んで、喉は叫ぶ度に擦り切れそうなほどに痛んで苦しいのに、離れていく女の人に戻ってきて欲しくて仕方がなかった。
あぁ、でも、いやだ、この後の事に聞こえる音がどうしても聞きたくない。どうしても耳にしたくないのに、夢は止まる事なく進んでいく。
やだ、あの言葉を聞きたくない、言わないで、おかあさん
「って夢を見たんだよねぇ。」
母さんに今日見た夢をそのまんま伝えると、鼻で笑いながら母さんはただの夢でしょ、の一言で済ませた。
結構壮大な夢だったのに。
まぁ、夢と違って母さんはここにしっかりいるし仕方ないのだけど。
「そんな夢早く忘れなさい。貴方はちゃんと私の子よ。」
「あの女が取り戻しに来ない限りはね」
12/3/2024, 3:03:39 PM