【好き嫌い】
好きなものは何かと聞かれた
答えられないでいると今度は
嫌いなものは何かと聞かれた
また黙っていると今度は不審な目を向けられた
他の人はここで答えられるのだ
ここで答えが出ないのは”おかしい”ことなんだ
疑われるわけにはいかないから
咄嗟に目についたもので取り繕った
大人は嫌いなものに当たることで
精神の均衡を保っていたんだと後で理解した
嫌いなものに手を出すのが正常なら
今この痛みがあるのも正しいことなんだろう
だって「嫌われる」ことには慣れていた
好きなことは何か、嫌いなものは何かと
ことあるごとに尋ねられた
本当に何一つ思い浮かべられなかった
他の人が当たり前に答える事をただ羨ましくみていた
欲しいものが何かだったら
きっとすぐに答えられる気がしたけど
やっぱり叶うはずはないから直ぐに考えを打ち消した
どんどんと人間のふりが上手くなって
それでも好きも嫌いもわからなくて
ぼんやりと世界を眺めていた
そんな視界に影がちらつく
世界の輪郭すらぼやけて見えていたのに
やけに鮮明に見える影
少し彷徨った後
ずっと空いていた僕の隣にすっと並んだ
ただそれだけのことなのに
何故だか涙が溢れ出して止まらない
人間のふりをする時にしか流せなかった涙が
意識もせずにただ流れていく
この涙がなんなのかすらわからないけど
寄り添ってくれた影の手を
強く強く握りしめた
初めて感じる暖かさが冷えた手に心地よい
これが「好き」ということならいいなと思った
2024-06-12
6/12/2024, 1:59:38 PM