そら豆

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僕は本を読むのが好きだ。放課後は予定がない日は、いつも図書室に行く。そこにある砂時計をひっくり返し静かな砂の音を聞きながら本を読むのが心地よく、何度も繰り返す。
いつも通り僕が本を読んでいると、隣のクラスの女の子が図書室に入ってきた。
「と、となりいいかな?」
中野桃香だった。いつも静かでおとなしくあまりぱっとしない印象だった。
「いいよ。」
僕は本から目を離さないで答えた。桃香は、
「ありがとう。」
と、いい僕の隣に座った。そして、カバンの中から文庫本を取り出し、それを読んでいた。
しばらく沈黙が続く。砂時計の音が僕の耳に届いてくる。もう10月。だんだん紅葉が始まるころだ。突然桃香が僕に話しかける。
「中野くんは、なんでいつもここにいるの?」
「別に、理由はないよ。」
「ふーん。」
ふと、横を見ると桃香は不思議そうに僕を見ている。
「なんだよ」
「何もない。」
桃香は、何もなかったかのように読書を続ける。
初めて、こんな近くで話している。いつも座っているだけだからあまり話したことなかったけどこんな感じなんだ。桃香の顔はかなり整っていた。僕は初めて胸の高鳴りを知った。
「どうかしたの?」
「なんでもないよ。」
僕は焦って本に視線を向ける。
「中野くんはなんで本が好きなの?」
桃香は、また、質問をしてくる。
「普通に生活してるだけじゃ経験できないことをみせてくれるからかな。異世界物とか、色々な青春とか見れるし、僕を成長している感じかするんだ。」
「そんなこと考えていたんだ。」
桃香は言葉を続ける。
「中野くんって、しっかりしてるよね。私、ここまで話してて面白いって思ったの初めてかも。」
僕の中で何かが跳ねた。
「急になんだよ。」
「ち、違うよ!そういう意味で言ったんじゃ…」
顔を赤らめ、桃香は訂正している。
それが面白く、つい笑ってしまった。
「ハハハ。」
「な、なによ。」
「何もないよ。」
「また、話にきてもいい?」
「別にいいよ」
桃香は、早足で図書室からでていった。
いつのまにか、砂時計は止まっていた。
あれからというもの、僕らは、毎日のように話していた。僕は、少しずつ桃香に惹かれていた。話してて面白い。なんて言われたことなかった。
そして、ある日の放課後。また本を読んでいると。
「中野君!しおりいる?」
桃香は、僕に聞いてきた。
「ほしい。」
僕は即答で答えた。
「私今日予定あって今日は話せないや。」
「いいよ。気にしてくれてありがとう。」
僕は、お礼を言う。
「じゃあこれ渡すね。」
桃香は僕にしおりを渡した。
「バイバイ!」
「バイバイ!」
僕はしおりを見た。
そこには、リナリアの花が印刷されていた。
「リナリア?確か花言葉は…」
図書室の砂時計の音がより大きく感じられた。

10/17/2025, 12:57:02 PM