やなまか

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メルルはいつも以上に優しく大地に下ろされた。
足元でさっくりと砂が沈む。靴を通して熱が伝わってくる。
「気ぃ付けろよ」
「はい」
砂浜って…こんなにも柔らかいんだ。ヒムの注意は予告であったのか、メルルはバランスが崩れてよろけてしまう。彼が咄嗟に腕を掴んで助けてくれる。
「ごめんなさい、ヒムさん」
「いや。すまね」
砂を構成する成分は、単に海流が運んだ泥であったり、すっかり角が取れて丸まったれき岩であったり、大陸からの風で集まった砂であったり、砕けた貝殻であったりと様々らしい。足元の白い砂は粉のように細い。
たくさんの仕事の合間を縫って、二人で南国の島へ文字通り移動呪文で飛んでやってきた。

太陽は眩しくて、海の反対の砂浜の向こうは南国の木々がゆさゆさと揺れている。甘い香りさえしてきそうだ。
ヒムは芝居掛かった声を出す。
「で。お気に召しましたか、お嬢さんよ」
「なにがですか?」
「珍しく海がみたいとか言うからよ」
彼はなんだか眠そうな顔をしている。
「あ。それ…嘘なんです。ごめんなさい」
「は?」
ヒムはなかなか事情が掴めない。このお嬢さん、今嘘って言ったか?
「ヒムさんと2人になりたかったんです」
波の音がちゃぷちゃぷと続く。メルルは彼に背を向けて海を眺める。

どうしてか分かりますか?と付け加えれば良かった。

波間は日差しを照り返して眩しくて、木々は緑が濃くて、砂浜は穢れを知らぬほどに白い。どうか。はにかんでしまう子供のような顔は見ないで。




10/9/2023, 12:11:15 PM