#寂しさ
※過去に書いた作品の続きですが高校1年生の一卵性双生児、数字で測れるものは全て同じスペックの悠莉、悠妃の話であることさえ押さえてもらえれば単体でも読めます。
キーンとした痛みが去った頃、すでに悠妃はリビングから出て行っていた。多分自室にいるのだろう。よろよろと歩いてソファに向かう。私には拒絶されても押しかけるような強引さはないし、周りを見ても特に忘れ物もないので、部屋を訪ねる口実もない。
「なんなのよ、もう……」
私は「はーぁ」とため息を吐いてソファに沈み込んだ。一卵性双生児としてずっと一緒に、喧嘩一つせずに過ごしてきた。小さな町の小中学校だからクラスも一つしかなくて学校でも一緒に過ごして来たし、高校の進学先だって2人で話し合って決めた。運が良いのか、高校でも同じクラスになった。
一緒にいれば、2人で力を合わせればなんでもうまくいく。といっても、得意不得意を補い合うというわけではなくて、私たちは同じだけの力があるから互いが互いの代わりになれる。一緒に物事に取り組めば倍速で終わる。一緒にいると自分が拡張されたような感じがして、楽しみも喜びも倍になる。
それなのに、最近の悠妃はつれない。学校では同じ部活に入らなかったし、休みの日はいつも部屋に籠っているし、遊びに行こうって誘っても断られる。一卵性双生児とはいえ性格は違うから、元々悠妃は大人しくて静かな傾向はあったけど、最近は1人で殻に閉じこもって、呼びかけても殻から出て来てくれない。運良くちょっと出て来ても、すぐに帰ってしまう。カタツムリみたい。いや、カメかな。
「反抗期かなぁ……」
去年の今頃はいつも一緒にいたのに。2人でアイスを分け合って、頭痛ーいって天井を見上げて、一通り笑って、ココアとか淹れて、「勝手に牛乳使ったでしょ!」ってお母さんに怒られて、それから……。
やりとりを思い出すだけで寂しさが募る。前は自室なんて形だけのもので、いつも隣にいたのに。2人でリビングで勉強して、疲れたら習い事のピアノの練習して、飽きたら2人でお菓子食べて、気分転換に走りに行ったりして。1人でソファにポツンと座っていることなんて、なかったのに。
(寂しいよ)
私は自分の半身がなくなったかのような感覚なのに、悠妃は違うのだろうか。今の悠妃には私が邪魔なのか。こんなにも一緒にいたいと思う私がおかしいのか。友達からもシスコンだよなとはよく言われるので、おかしいのかもしれないけれど、仕方がない。だって生まれて16年経ったけど、そのうち15年はずっと一緒だったのだ。ここ数ヶ月が私にとってはイレギュラーで、これが一生続くのかと思うと泣きそうだ。
(いいもん、絶対当ててやるもん)
性格は違えど悠妃と私の思考回路は同じだし、そもそも同じ家に住んでいるのだ。文理選択などという、確率50%の選択なら外すわけがない。問題は大学で、何せ日本には約800校あるのだ。大学自体は偏差値でかなり絞れるとはいえ、学部も含めて当てるのはさすがに難しいとは思う。だとしても諦める気はない。
(ねぇ、ずっと一緒にいてよ、私の片割れ)
12/19/2024, 3:30:44 PM