紋志郎

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 いつの間にか、空がだいぶ近くなったような気がする。駅前のカフェで抹茶フラペチーノをかき混ぜながら、彼女はそう思った。
 窓の外を、たくさんの人が行き交う。彼女と同じくらいの歳の女性は、ハンディファンの風を顔に当ててスマホを触っている。少し猫背のサラリーマンは、タオルで汗を拭きながら電話をしている。彼女は金色に染めた髪の枝毛を気にしながら、フラペチーノを一口飲んだ。
 真っ青な夏の空を見ていると、彼女はいつも透き通ったラムネを思い出す。市民プールの帰り道、いつも祖母に買ってもらっていたラムネ。炭酸のくっついたビー玉をじっと眺めては、祖母に早く飲みなと催促された。
 思い出の中のラムネは、ちょうど今日みたいに、夏の日の空に相応しい青色をしていた。しかし、今の彼女は、あれが着色料の人工的な色だったと理解している。
 「ラムネはねえ、広い海と大きな空からできてるんだよ」
 昔、ビー玉を眺めていた彼女に、よく祖母が言っていた言葉。幼かった彼女はその言葉を信じていた。
 祖母と並んで歩く帰り道、幼い彼女がラムネのビンを掲げた空は、きっと今よりも少し高かったはずだ。

6/28/2025, 4:11:53 PM