「先輩、大丈夫ですか?いや、大丈夫じゃないから来たんですけど」
合鍵を使用して入ってきた俺に、先輩は何が何だか分からないという表情をしていた。
「…なに、それ?」
先輩はパンパンに詰め込まれて今にもレトルトカレーの箱の角によって破けそうなレジ袋を指さした。道中あったクリエイトで、お粥やらゼリーやらプリンやらを、適当に買って持ってきたのだ。
先輩はインフルエンザにかかってしまったらしい。電話越しの苦しそうな声に耐えかね、「うつすからこないで」とのメッセージを完全に無視してここまで来たわけだ。ちなみに上着の下はパジャマのままである。
「どうぞ、先輩」
「…ありがとう」
つっこむことにも疲れたのか、雑に感謝を述べたあと、先輩は寝返りをうって俺に背を向けた。
暫く沈黙が続き、しびれを切らした先輩が口を開く。
「なんで帰らないの?」
「なんで帰らないといけないんですか」
「君にインフルなんてうつしたら大変なことになるから」
「大変なことってなんですか」
俺のことなどどうでもいい、先輩が元気でいてくれるのが一番です、なんて言おうとしたら制止されてしまった。そしてまた沈黙が続き、俺は立ち上がった。もちろん、電気を消す為に。
「…なんで消したの、ていうか早く帰りなさい」
「先輩、やっぱり俺、病気は寝た方が治りやすいと思うんですよ」
「え?」
布団の中、先輩の横に侵入する。混乱している先輩に密着し、額に手を当ててみた。熱い。
「心配だったんです、俺。流行り病とか言って、突然死んじゃったらって思ったら怖くて」
「…それとこれは関係無いでしょ、離れて」
「嫌です。先輩が寂しくないように一緒に寝てあげますから、目瞑ってください」
先輩はもう言い返すことにも疲れを感じたのか、それから起きるまでは何も言葉を発さなかった。食欲が無いせいか、前会った時よりも細い気がする。思い返せば俺は、ずっと先輩に迷惑ばかりをかけていた。だからこんな時ぐらい、先輩の役に立ちたかったのに。
暗がりの中で密かにそう考えているうち、俺は眠ってしまった。
そして結局、俺と先輩は朝まで眠り、先輩のお父様とお母様にあらぬ誤解をされることとなってしまった。
先輩は数日後、無事に復活したが、案の定俺の方が今度は熱を出してしまった。先輩が叱りながらも看病してくれたので、まぁラッキーだった…?
10/28/2024, 11:46:52 AM