彩竜帝 里乃亜

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お題「楽園」

「楽園ってなんだろうね?」
全ての始まりは、彼が発したその一言からだった。

それは彼とその友達がお菓子をつまみなかがらそんなことを話していた。始めはただの雑談だったのだが、彼が何を思ったのかふとそんなことを口にした。
「え?」
彼の意味深な言葉に首をかしげるその友達。いつもだったら絶対に止めるはずのないチョコ菓子をつまむ手を止めて彼の方を見つめる。ガラス細工のような空色とレモン色の瞳を見つめ返す彼。そんな彼から目をそらし一つため息を付いてから友達は再び話し始める。
「やっぱり人それぞれなんじゃない?天国を楽園を捉える人、この世を楽園と捉える人とかさ、見方が違えば意見だって違うでしょ?」
そう言ってソーダに口をつける彼の友達。星空のようなソーダの中に浮かぶ氷。その氷に反射して映る自分を少し見つめてから彼に視線を送り、彼女はこう聞いた。
「あんたは?あんたはどうなの?」
彼は少し窓の外の景色に視線を移す。外では小鳥達がさえずり、子ども達がキャッチボールをして遊んでいる。
それから、少し悩んでからこう答えた。
「ん~、分かんない。」
「そう。」
短いやり取りだったが、彼らにはそれで十分だった。
夏の夕方の日差しが彼らを優しく包み込んだ。
そしてゆっくり、のんびり、日は沈んでいった。

5/1/2023, 9:26:58 AM