『君からのLINE』
ポロン。
通知音がした僕は読んでいた漫画から視線を動かした。パタパタと辺りを探り携帯を手にすると、LINEが着ている表記が画面に出ていた。
時刻は夜中の2時45分。LINEするには些か無礼な時間だ。僕はLINEの画面を開くとその相手の名前と顔を顰めた。LINEは2年前に別れた、大学時代の彼女、あかりからでただ一言「会いたい」とだけ書かれていた。
(なんだよ。一歩的にフったのはお前だろ)
もう気持ちが離れてしまった僕は、LINEを無視すると、再び読んでいた漫画に目を落とした。
次の日、僕はポロンという通知音で目が覚めた。
(おかしいな。バイブ設定にしてたはずなのに)
不思議に思い携帯を触ると、時刻は2時刻45分。なんだかデジャブを感じ画面を見ると「LINE 一件のメッセージ」と通知が出ていた。開いてみると、またあかりから「ねぇ会えないかな」とメッセージがきていた。
(なんなんだよ!)
そう思い僕はまた眠りについた。
その次の毎晩2時45分にまたポロンと鳴った。僕はウンザリしながらLINEを開くとまたあかりからメッセージがきていた。しかし今度はたった一文字「よ」だけだった。
(なんだよ。今度はなんか誤送信か?)
そう思いまた眠りに落ちた。
それから毎晩、あかりから一文字だけ「だ」「き」「す」「い」と送られてきた。
「何なんだよ!ふざけんな!」
イラっとした僕は怒りにまかせて携帯を叩きつけ明日の仕事のために眠った。
「お前、ひっでえ顔だな」
仕事を終え大学時代の親友は僕を見ると苦笑いしながら一言目にそう言った。
「まぁ色々あってな」
そう言い僕はビールを煽った。寝不足が祟ってか僕はすぐに酔いが周った。
「なんかよぉ……最近、あかりから毎晩毎晩夜中の2時45分にLINEが着てさぁ。何なんだよ。そっちからふったくせにさぁ毎晩毎晩、会いたいだ、わけわからない1文字だけの気持ち悪いLINEしてきやがって」
僕は酔った勢いでそう親友に言うと親友は驚いた表情を浮かべ僕を見た。
「なんだよ?そんな顔して」
「お前、冗談が過ぎるぞ」
親友は怒ったように低い声で言った。
「冗談じゃないよ。見るか?」
そう言い僕はスマホを取り出しLINEを開いた。しかし、なぜかあかりのメッセージだけなぜか開けなかった。
「え?なんでだ?」
「よく聞け」
そう言い真剣な表情で親友は僕を見た。
「あかりはな、2年前に病気で亡くなってるんだよ」
「は?」
頭の上に「?」が飛んだ。何を親友が言っているか理解できなかった。
「お前に迷惑かけたくなかったから別れたって⋯」
「嘘だろ。だって毎日LINEくるんだぜ」
僕は携帯の画面を見た。すると、ポロンと音を立て携帯が鳴った。顔を見合わせ恐る恐る携帯を見ると、あかりからLINEが着ていた。
「開くぞ」
「お⋯おぉ」
僕がLINEが開くとそこには「ごめんね」とだけ書いてあった。
「どうゆうことだよ」
親友が呟いた時、またポロンと携帯が鳴った。ビクッと体を震わせ僕たちは携帯を見た。
そこには「だ」とだけ書いてあった。
「⋯今日は帰ろう」
青ざめた親友はグビっとビールを飲み干すと立ち上がった。僕も立ち上がり店を後にした。
その夜、夢を見た。それは僕とあかりがまだ付き合ってた時の夢⋯いや記憶だった。
「さぁ、なんて書いてあるでしょーか」
ニコニコと笑うあかりを僕は愛おしそうに見るとLINEに目を落とした。そこには「いべたンー」と書いてあった。一見すると何が何だかわからないが、ルールを知っている僕はニヤリと笑った。
「はいはいラーメン食べに行くか」
「やったぁ!司の奢りね」
「はいはい」
そこで目を覚ました僕はハッとしてあかりのLINEを開きスクロールしていった。
「よ」「だ」「き」「す」「い」「だ」
『大好きだよ』
僕の目からボロボロと涙が流れ俯いた。
「バカ⋯なんでそう言ってくれなかったんだよ。迷惑なんかじゃないのに⋯僕もずっと好きだったんだよ⋯」
そう呟き僕は声を上げて泣いた。
背後でボロンと音を立てLINEがきた。
「ありがとう」
そう書かれたあかりのLINEアカウントは僕のLINEから消えていった。
『あなたの夜が明けるまで』を聴きながら
9/16/2024, 8:22:13 AM