《未来の記憶》
「《未来の記憶》?」
とある水曜日の朝、私、熊山明里は突然意味不明なことを言ってきた親友のなつこと中川夏実に怪訝な声を返した。
「そう。なんか今朝のテレビの占いで《未来の記憶》について話し合うとラッキーって言ってた」
「どんな占いだよそれ」
「本当にそれ。まあ細かいことは置いといて、明里はなんか思い浮かぶ?」
「未来の記憶って要するに私たちの未来の姿ってことでしょ? 特に何も思い浮かばないわね」
「やっぱ明里は現実主義だもんなー。じゃあ仮に10年後の姿は?」
「10年後……、多分並木FMでラジオパーソナリティやってる」
並木FMはここ、並木町にしか届かない小規模なFMラジオ放送で、小学校高学年からずっと放送委員会をしていて、今に至っては副委員長までしている私にお似合いの声を使った仕事だ。案外悪くないと思ってる。
「あー、確かにやってそう。あとこれだけは断言する! 蒼戒と結婚してる!」
「はあああ?! ありえないから!」
本人がいないからいいものの、一体何を言い出すんだこいつは。
「ぜーーったいありえるもん! ついでに言うと明里と蒼戒の結婚式でハルが号泣してると思う!」
「……それはある」
相手が私かどうかはともかく、蒼戒が結婚するとなったらサイトウは号泣してそうだ。
「さらに言うとハルは結局結婚しないと思う!」
「それもある」
サイトウの弟バカは有名で、『彼女欲しいー』なんてしょっちゅうボヤいてるけど本気で言ってないことは多分みんな気づいてる。
あいつは蒼戒が幸せになるまで彼女作る気もないし、結婚する気もないのだ。まあ仮に蒼戒が結婚してもサイトウ自身が結婚するとは思えないが。
「そもそもあいつ蒼戒いなくて生きていけるのかしら……」
「確かに……。生活面は問題ないとしても弟ロスになってしょっちゅう会いに行ってそう」
「ありそう……」
それこそ、『よう!』って超軽いノリで会いに行ってそうな。
「ハルはどんな仕事するのかな〜?」
「並木FMのアシスタントとか?」
「ありそう〜。あとは野球選手とか?」
「スポーツ実況者もあるかもね」
「それが1番ありそう!」
「確かに。ちなみにあんたは警察官でしょ?」
「うん。多分紅野くんと一緒」
「いいねぇ、お熱いこった」
「そ、そんなんじゃないもん!」
「ちなみにいるとしたら2課?」
「どうだろう。祈莉先輩は2課らしいんだけどあたしたちはどうなるのかな〜」
「まあ未来のことはわからないということで」
「そうだねー。あ、そいえば昨日さ〜」
私が軽く話を締めると、そのまま話題は別のものに移ってしまったのだった。
(おわり)
2025.2.12《未来の記憶》
2/13/2025, 9:48:23 AM