「はい、どうぞ」
その声に、微睡みにあったアキラの意識は現実へ急激に引き揚げられた。
埋めていた膝頭から顔を上げると、目の前に金属製の容器が突き出されていた。
泣いていたからか、目が膝に押しつけられていたからか、若干視界がぼやけている。
その奥でいまいち表情の判らない鳥頭とアキラの視線がぶつかった。
「あ、ああ。ありがとう」
戸惑いながら受け取った容器には、澄んだ液体が五分ほど注がれ、天井の照明をゆらゆらと反射している。
なかなか口をつけない事を不思議に思ったのか、イハは「これは、人族が飲んでも良いほど浄水してます、良い水です」と補足された。
-そういう訳では…
と思いつつも、水を口に含むと、身体が渇水していた事に気付いたように、一気に飲み干してしまった。
「…ヒスイ様は」それを待っていたようにイハはアキラに話しかけてくる。
「毒が抜けるまで一晩、頸が完全に繋がるまで追加二晩、眼球や肺などの再構成で四晩かかります。毒の除去の副作用で恐らく身体機能が著しく上昇しますよ」
一拍置いて、アキラは容器を投げ捨ててイハに詰め寄った。
「眼と肺…再構成って…どういう事だよ!?ヒスイの治療だけじゃないのか!」
頭では、あの時イハに頼る以外の選択肢がなかったこと、恐らく全くこの器械族に害意はなく純粋に保護してくれたことは理解できていたが、それでも怒鳴る事を止めることはできなかった。
「はい、人族にとって、空気も有毒ですので、生まれ落ちるまたは生まれた後に、処置が為されます。しなくとも直ぐに死亡することはないですが、生存年齢は短いでしょうね」
イハはアキラの質問に淡々と答える。
「ヒスイ様はご指示のとおり未処置でしたので、今後侵され無いよう再構成をしておりますよ?」
「てことは、俺も?」
「はい、アキラ様にも受けさせるように指示されております」
「ヒスイが?」
「はい」
−治療のとき外にいたから、そこで伝えたのか
「ちなみに断ることは?」
「自由意志でございますよ、そうする場合は防毒防塵の防護装備を用意しますから。人族にはひどく苦しいですから、不利益の方が大きいですね」
「…怒鳴って悪かったよ。解った」
アキラはヒスイが目覚めるのを待って、施術を受けることにした。
4/21/2024, 4:41:05 AM