「幸せとは」
かわいそうにね。
まだ小さいのにね。
かわいそう。
部屋の外から、絶えずそんな声が聞こえる。
暇だなあ。
私は今日も声を漏らす。
だって。
この部屋には、たった2人しかいないんだもの。
隣の部屋では、和気あいあいとした、いろんな声が聞こえる。
ああ、つまらない。
寝っ転がって、本を読むことに疲れた私は、向かい側のあの子に話しかけた。
ねえ、渚。
一緒に遊ぼ。
その子は振り向いて、
いーよ。
と、にっこり笑った。
2人で遊んでいると、外から女の人の声が聞こえた。
あの2人、かわいそうね。
家族にも会いに来てもらえない。
最近ご飯もほとんど食べない。
ほとんど眠ってばっかりだし。
かわいそう。
私達のなにがかわいそうなんだろう。
お母さんとお父さんは、いつも私を殴るか蹴るかしかしない。
ご飯は食べたくないから食べない。
眠いから寝てる。
渚だってそうだ。
同じ境遇だった私たちは、この白い部屋で、すぐに仲良くなった。
変に渚も、馬鹿みたい、と言う顔をしている。
気づいたらもう夜。
私たちは、すぐに眠りについた。
何日かたった夜、急に胸が苦しくなった。
寝れずにいると、また声が聞こえた。
ほんとかわいそうにね。
お医者様は今夜が峠だとおっしゃっているし。
きっともうすぐ
死んじゃうわ。
死ぬ?
だから、こんなに苦しいの?
不安になって、渚に抱きつく。
ねえ、渚。
わたし、たち、しぬの?
だから、わたし、かわいそう、な、の?
渚は、苦しそうに、でも穏やかに笑う。
大丈夫。
僕たち、幸せ、だよ。
誰からも、愛されなくたって。
家族に、好かれなくたって。
大丈夫。
僕がいる。
林檎ちゃん。
ありがとうね。
こんな僕にでも愛をくれて。
白い白い、病室の、僕の心に、光をくれて。
愛してる。
大丈夫。
1人じゃないよ。
死んでも一緒。
ああ。
ありがとう、渚。
わたしも、大好き。
薄れていく意識の中で、私たちは手を繋ぐ。
掠れ切った声で、2人でつぶやいた。
誰が僕たちを不幸と言ったって。
僕たち、私たち
しあわ、せだ、よ
1/5/2025, 10:10:41 AM