全部全部、連れていこう。
鞄に詰めて、ポケットに押し込んで、両の腕にも山ほど抱えて。
どれもこれも、捨てることができなかった。
片付けようとはしてみたけれど、どうにも手が止まってしまった。
片付けられないのなら、いっそ全部持っていこう。
無くさないように、落とさないように、忘れないように。
途中でいくつか転がっていくかもしれない。
僕はそれに気づかないかもしれない。
ころころ、ぽろぽろ、置いていかれてしまうかもしれない。
そんな時は、貴方が拾い上げてほしい。
返してくれようとしなくて構わない、僕は貴方の足を止めたくないから。
思い出そうとしてくれなくて構わない、僕は貴方の心を煩わせたくないから。
ただそっと拾い上げて、落としていったよ、莫迦な奴と笑っていてほしい。
そうしてどうか、心の隅に置いておいてほしい。
貴方にとっては、ただの過去の記憶かもしれない。
けれど僕にとっては、何よりも輝いて見える宝物だから。
いつかこの日が来ることは、出会ったときにわかっていた。
僕と貴方では、時間の流れが違うから。
僕は貴方に笑っていてほしい。
たとえそれが、顔をぐしゃぐしゃにした泣き笑いだったとしても。
ねぇ、僕の声が聞こえますか。
きっと貴方に僕の言葉は通じていないけれど、それでも僕は伝えたい。
貴方に出会えてよかった。
僕は世界で一番の幸せ者でした。
さぁ、もう行かなくちゃ。
止まることはできないから、全速力で走っていこう。
たくさんたくさんの宝物を、みんなみんな持っていこう。
走り出す前に、これだけは言わせてください。
「さよなら!!」
もう、僕は一人で大丈夫。
***
―――わんっ!!
あぁ、ちゃんと聞こえたよ。
お前の声は、届いているから。
「……さよなら。」
また会う時は、空の上で。
[たくさんの思い出]
11/18/2023, 11:56:22 AM