夜景
「街の灯りがとても綺麗ね ブルー・ライト・ヨコハマ♪」と母が鼻歌を歌っていた日を思い出す。思い出す母は決まって台所に立っていて後ろ姿で味噌汁の匂いがする。
夕刻、外に出ると空はとても澄み渡り高くて夜の帳が下り始めると十五夜の夜は群青色の空に白い月がくっきりと浮かび、どこからともなく鈴虫と蟋蟀の声がきこえる、仕舞い忘れた風鈴の音はつい最近の涼やかさとは変わって、物悲しくきこえる、彼岸前の田舎の宵の風景。
私は、母の鼻歌を聞きながらテレビを見ている
夕暮れの街の灯りは少し寂しい気分になるよなんて思いながら、都会の夜景はブルー・トパーズみたいにキラキラ光るのだろうかなんて都会の夜景に想いを馳せながら、「世界名作劇場」を観ていた。
それから、いつか背中越しに聞いた母の鼻歌の都会の夜景に憧憬て、現実に淀屋橋から見た夜景はとてもとても寂しかったことを思い出す憧憬た景色はそれほど美しくもなく、澄んだ高い空と夜の帳が下りた群青に浮かぶ白い月が想出されて泣いた、あれがホームシックと言うやつか。時はバブル夜明け前、夜明け前が一番暗くて寂しいってやつなのか。木綿のハンカチーフじゃないが、足早に過ぎる都会の日々は真っ白なキャンバスを都会の絵の具で染めて行った。
けれど、季節が変わるたびに思い出す。
母の背中と味噌汁の匂いと、高い空と澄んだ月と一番星。都会で大事な何かを無くさないように、母の根っ子が私を引っ張り支えた、「この子の花が咲きますように」母の声が聞こえた。
私は、お母さんに近づけたろうか?いつもそんな思いで子供たちの背中を見送って来たけれど
それぞれに巣立って行ったけど、今、それほど美しくもないと思った都会の夜景は、そこで生きた日々と共に温かなものになった。
お母さん、あの日の私、私は今ここにいます。
結構楽しく生きています、ありがとう。
令和6年9月18日
心幸
9/19/2024, 1:58:36 AM