赤。青。黄色。緑。白。
硝子の瓶を満たす、色鮮やかな何か。
「あげる」
柔らかな笑みと共に渡された、きらきらとした瓶の中身。
初めて見る、それ。
綺麗だけれど何に使うものか分からず首を傾げれば、目の前の彼は驚いたように眼を瞬かせた。
「飴。食べた事ないの?」
「食べれるの、これ?」
疑問に疑問で返せば小さく笑われ、その手が瓶の蓋へと伸びる。ぽんっ、と軽い音を立て蓋を外すと、中の小さな粒を一つ摘み上げた。
「はい。あーん」
促されるままに開いた口に入れられる粒。途端に口の中に広がる甘さに、思わず頬が緩んだ。
「甘いっ!クロノ、これすっごく甘くて美味しいよ!」
「気に入った?」
「うんっ!とっても!」
飴、は固く噛む事が難しい。代わりに舐めて転がせば、その甘さが口いっぱいに広がって何だか幸せな気持ちになってくる。
「それ、色ごとに味が違うんだ。シロは何味…何色が好き?」
好きな色を尋ねられ、瓶を見ながら考える。
好きな色。好きなもの。
からころ、と飴を転がしながら。
それはやっぱり、と胸中で付け加えながら呟いた。
「ん…と。青、とか…空色、かな」
写真の中で見る、あのどこまでも澄んだ空の青は好きだ。これからもきっと変わらない。
「そっか。青、だとソーダ味かな。これも甘いから気にいると思うよ」
くすくすと笑い、彼は瓶の中の空色を指さす。
初めから答えが分かっていたようなその態度に、少しだけ気分を損ねながらも。
でも、と言葉にはせずに付け加えた。
空を思わせる青は好きだ。
けれど。それよりも。
楽し気に笑う彼のその、夜を溶かしたような紺青が。優しい彼の艶やかな髪色が。
今は他の何よりも大好きなのだと。
心の内に留めながら。
にやり、と彼に笑い返してみせた。
20240622 『好きな色』
6/22/2024, 3:53:25 PM