慣れた手つきで呪文を唱え、寮の正門を潜る。
この寮はとある老夫婦が管理していて通称、初心者寮と呼ばれている。
学園を卒業して尚、自力で家すら借りられない者向けの寮。話題に上がった際の瞬間最大風速を除けば、悪い所は何一つない聖地だ。
......世間からのそれが一番デメリットでは、という至極真っ当な意見は聞こえない事とする。
「おぉ今日は早いな!どうじゃった?成果の程は」
「あ、レオルさん!お疲れ様です!」
そそくさと渡り廊下を歩いていると後ろの方から突然声をかけられた。
モップ片手に実に清掃員らしい格好をした彼こそが件の老夫婦の一人、レオルさんである。
「成果って......踏んだり蹴ったりですよ!」
聞かれた反射で叫んでしまい、思わず手で口を覆う。危ない危ない......これ以上のご近所問題は勘弁だ。二桁目の偉業は防いだ。さすが私。
そんな私をいつも通り面白いと笑い飛ばしたレオルさんは、何か意味ありげな笑みを浮かべてメモの切れ端を渡してきた。
これがただのおつかいだったりするのもまた、いつも通りの事だったりする。
「夫婦」
11/23/2023, 9:57:19 AM