小説
迅嵐
二人の非番が重なる貴重な日。俺たちはショッピングモールに遊びに来ていた。久々のデートに俺は柄にもなく舞い上がっていた。
「久しぶりだな。ショッピングモールなんていつぶりだろ」
隣の迅はくるりと辺りを見渡すとニコニコと笑っていた。その表情から悪い未来は見えていないと察す。
「だな、本当に久々だ。どこから回ろうか」
すると後ろから声をかけられた。
「お兄さん達、一緒に遊びません?」
「え?」
振り向くと、若い二人組の女性がこちらを見ていた。
「お友達同士で買い物ですか?」
一人の女性が笑顔で話しかけてくる。……友達…。まぁ普通は友達に見えるよな…。
恋人同士に見えていなかったという残念な気持ちを抑えながら、どうやって断ろうかと悩んでいると、横からにゅっと迅の腕が伸びてくる。
その手はそのまま手持ち無沙汰だった俺の手を握りしめた。
「いやぁごめんねお姉さん達。おれ、今こいつとデート中だから」
そのままさっさと背を向け、迅は俺の手を引きながら歩き出してしまった。
しばらく歩いて女性たちが見えなくなると、俺は今だ前を向き続けている迅を引き止める。
「ま、待て迅。良かったのか?あのまま置いていってしまって…」
迅は振り返ることなく、俺の手を強く握り直しながらぽつりと呟いた。
「……友達じゃねーもん」
迅の表情を伺うと、子供のように拗ねた顔で俺をじっと見つめ返してきた。その姿のなんといじらしいことか。あまりにも可愛くて、先程の悲しい感情はすっかり消え失せていた。
「はは、恋人、だもんな?」
俺は未だ少し不貞腐れている迅の手を引くと、可愛い恋人に、アイスが食べたいとおねだりをするのだった。
10/25/2024, 3:07:26 PM