鈴木

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昔、手芸好きな母がくれた

白い花型のブローチを

僕はいつまでも捨てられないでいる




小さい頃から可愛らしい物が嫌いだった

でも母は、僕にフリルのついたワンピースやピンク色のぬいぐるみのような、可愛らしい物ばかり買い与えた

絵を描いたりお人形で遊ぶ事よりも外で運動していたかったし

恐竜やドラゴンみたいな強くてカッコイイ生物が大好きだった

自分の性別に初めて違和感を覚えたのは、小学四年生の時

僕はクラスの女の子に恋をして、告白して、フラれた。

「───でも、▇▇▇ちゃんは女の子でしょ?」

その後のことはショックでよく覚えていない





僕はあの告白の日から塞ぎ込むようになり

母には随分と心配させてしまっていたと思う

色々な事を一人でグルグル考えて、母に配慮するような余裕は
あの頃の自分にはなかったから。

『きっと誰にも受け入れられない』

『母が悲しむかもしれない』

『女の子らしくならないと』

何よりも悩んだのは結婚や子供の事だ

僕の結婚式を見る日が楽しみだとか、孫ができたらこんな事をしてあげたいと、母はいつも語っていたから。

それを語る時の母は本当に楽しそうで、父が亡くなってから毎日どこか暗い表情も、その時だけは輝いていた事をよく覚えている。

だから拒絶されると思い、母には言えなかった






冬の寒い日

いつものように高校に行って授業を受けていると

突然、血相を変えた担任の先生が教室に飛び込んできた

「▇▇▇、落ち着いて聞いてくれ────」

頭の中が真っ白になった

クラスの皆が心配の目を向ける中、先生の車に乗せてもらい

病院まで送ってもらったが

間に合わなかった

母は膵臓癌だったと医者に告げられた

高校に入ってから一人暮らしをしていた僕は母の異変に気づけなくて

母も心配させたくないから、と伝えられなかったらしい

心に大きな穴が空いたような喪失感に見舞われて

顔がぐちゃぐちゃになるまで泣いた






お通夜や葬式が終わった後、母の担当医から呼び出された

「お母様はご自分の手で渡したいと言っていましたが……不躾ながら、私から渡させていただきます」

それが白い花のブローチだった。

調べてみればその花は"ブライダルベール"という、結婚式で花嫁が身につける花らしい。

僕はそれを知った時 色んな感情や考えに襲われて

数日熱で寝込んでしまった



出来栄えはあまり良くないし

こういう可愛い物は好きじゃない

何よりこれを見ると胸が傷んで苦しくなるから

捨ててしまおうと思っていた



それでも、これが母からの最期の贈り物だと思うと

これが傍にある事に頭をかかえながらも

いつまでも捨てられない






***



「久しぶりに来たなぁ、叔母さんの家」

「あら、随分とイケメンになったねぇ」

「そうかな?ありがとう」

「あぁ、そうだ。貴方に渡さなきゃいけない物があったの」
「仕事が忙しくて遅くなってしまってごめんなさいね。」

「なになに?お小遣いとか?」

「ふふ、もうそんな歳ではないでしょう?ほらこれ、貴方のお母さんから」

「…手紙?」

「そうよ。もしかしたら自分では伝えられないかもしれないからって言ってたわ。私にはなんの事か分からないけれど」

「…ありがとう、読んでみるよ」

「…和樹、あんまり抱え込んじゃ駄目よ。とりあえず、自分の部屋でゆっくり読んで来なさい?」

「うん。そうするよ」




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▇▇▇▇へ


これを貴方が読んでいるという事は、私はもうこの世にいないのでしょうね。

…これ、言ってみたかったの!

ふざけてごめんなさい、本題に移りますね。


貴方が塞ぎ込むようになったのは、小学生くらいだったかしら。
それがとても言い出せないことで、貴方が深く深く悩んでいた事は、知っています。

でもお母さんは、貴方のお母さんだから

なんとなく理由はわかっていたのよ。

私は何度、貴方の心を傷つけてしまったのだろうかと
暫くは落ち込んでしまったけれど

私よりも貴方の方が何倍も辛い思いをしていたわよね。

そんな貴方に、上手く寄り添えなかった私を

どうか許してちょうだい。

私が何を言っても、貴方は傷ついてしまうかもしれないと
臆病になってしまいました。

そうしているうちに、病気が見つかって

もう治せないと医者に言われてしまい

私から離れて、少しだけ明るくなった貴方には
伝えられなかったの。

突然いなくなってごめんなさい。



最後に、私から貴女に贈り物があるの

きっともう誰かから受け取っているかな?

お母さん、器用じゃないから不格好になってしまったけどね

気持ちを込めて作ったから、大切にしてくれると嬉しいです。

この花はブライダルベールと言ってね、花嫁に贈る物なのだけれど…

どうしても貴方にこの花を贈りたかったの。

この花のブローチはね、私の結婚式の時に

私の母が意味を誤解していて

私の旦那、貴方のお父さんの胸元に付けてしまったの

私はそれがとてもおかしくって、でもお父さんはとても嬉しそうで

もし子供が生まれたら、その子が結婚する時に同じ物を贈ろうって、お父さんと約束していたの。
(もちろん貴方が嫌がったら胸元には付けないつもりでいたわよ!)

それにね、この花の花言葉

とっても素敵なのよ。


私は貴方の傍にいられないけど

貴方の幸せを、いつまでも願い続けているわ


                    お母さんより

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途中叔母の口にした「和樹」という名前は改名後の主人公のものです。

母の名前と父の名前から1文字ずつ取って、「和樹」

生まれた子が男の子だったらつけようとしていた名前だと

叔母に教えてもらったので、この名前にしたそうです。

8/17/2024, 4:41:16 PM