《ただいま、夏》
夏になると
死んだはずの君が
僕の前を、ふいに通りすぎる
下半身は透けて影も落とさない
それでも確かに君はそこにいた
最初は戸惑いながらも
風鈴にまぎれた声に耳を澄ませ
夕焼けに染まる君の笑みを見た
どんな姿になっても
もう一度君と話せることが
ただ、うれしくてたまらなかった
冷めた麦茶
空のままの椅子
蝉の声が忘れられぬ日々を照らし続ける
「やりたいことまだ終わってないんだ」
そう言って
君は照れくさそうに笑った
戻れないことは知っているけれど
僕は願う
この夏を君と
この旅を君と
終わらせたいと
消えぬ思いを君と重ねたい
たとえそれが
命をかける旅でも
「ありがとう、私と出会ってくれて」
そう言われて
僕は目を逸らした
胸の奥締めつける痛みを
隠すようにそらした視線
ああ、君には叶わないよ
僕はまだ
この世界で儚く生きていくだけ…
君の影は遠く
夏の風に揺れて消えた
それでも僕は君を探し続ける
今度こそ言うんだ
ずっと好きだったって
そしてこれからも
言葉にしなきゃ
胸の奥がざわついて
君に届く気がしないから
あの日の夏が
二度と戻らなくても
僕の想いは消えないまま
本当にこの世界から
彼女が消えてしまったら
そう考えるだけで
生きている心地がしなくなる
今はただ
彼女の残した願いを
そっと紡ぐ日々
それが終われば
彼女も静かに旅立つ
…いいのかな、これで、
最後に恋した人が君でよかった。
8/4/2025, 10:48:31 AM