『暗がりの中で』
街道の灯籠を巡っていけば次の宿場に辿り着けると教わったのだが灯籠に化けた獣のせいで道に迷わされ、気がつけばあたりは暗闇に包まれていた。しかし日の暮れまではもう少し猶予があったはずだし、伸ばした手のひらすらもわからないほどの闇とは少し出来すぎている。これも獣の仕業だなと当たりをつけるがどうしたものか。うかうかしているといつの間にか胃の中に収まっているということにもなりかねない。
思案の末に大きな声で独り言をつぶやく。
「あぁ、腹が減ってきたし寒くなってきたな。ここらで火を起こして闇をやり過ごすとするか」
荷物から火打ち石を取り出すと辺りの闇ににわかに緊張が走った。燃やすものなどないだろうと高を括っているようだが、誰を相手にそんなことを思っているのか。
鳥の形の形代に息を吹き当て、石を打った火花を載せる。轟々と燃え盛る鳥と化した形代が羽ばたくと火は闇に次々に燃え移り、ついに獣が正体を現して散り散りに逃げていこうとした。その一匹をむんずと捕まえる。
「たぬき鍋にちょうどよいな」
ドスを効かせた声でにやりと笑うと小さな獣は震え上がって泡を吹き、気を失った。散り散りに逃げたはずの獣たちは焦げながらも戻ってきて嘆願するかのように震えながら揃って鳴き出した。
「人を食わぬと約束すれば、鍋にするのはよしてやろう」
何度か頷くように頭を振るのを是とみて解放すると、獣たちは今度こそ散り散りになって逃げていった。
あたりはすでにとっぷりと日が暮れていたが空には月も星もあり、遠くには灯籠のぼんやりとした明かりが街道沿いに続いている。
「……鍋は惜しかったかな」
腹の虫が鳴くのを聞きながら、気を取り直して歩き始めることにした。
10/29/2024, 4:04:54 AM