106.『ティーカップ』『心の迷路』『祈りの果て』
モジホコリという粘菌をご存知だろうか?
このモジホコリ、実は驚くべき特性がある。
なんと迷路を解くことができるのだ。
まずモジホコリが張り巡らされた特殊な迷路に、2つのエサを置く。
すると行き止まりや迂回路から徐々に細胞を収縮させ、最終的に2か所を結ぶ経路だけを残す。
それも最短経路である。
『脳を持たない粘菌が、知的な振る舞いをする』
漫画『もやしもん』にも登場した、驚異のメカニズムである。
この発見はイグノーベル賞を受賞し、様々な分野にも応用された。
粘菌コンピュータといったものや、災害時の避難路のシミュレーションなど。
実に多彩である。
まだ語り足りないが、長くなるので興味がある人は自分で調べてもらいたい。
さて、前置きはここまでにして、ここから本題に入りたいと思う。
私はこのモジホコリを使って、ある薬を作った。
多くの人々が欲しがるであろう、画期的な薬。
迷いを失くす薬だ。
こんな経験はないだろうか?
2つの重大な選択肢を前に、どちらも選ぶことが出来ないと頭を抱えてしまったことに……
どちらも選べないあなたは、選択を先送り。
良いとこ取りの都合のいい選択肢が出てくることを祈り、そして祈りの果てに選択肢自体が無くなり機を逃してしまう。
そんな苦い経験が。
こう言った場合、『心の迷路に迷い込んだ』と表現されることがある。
私はその心の迷路を、モジホコリを使って解決できないかと考えたのだ。
ここまで言えば分かるだろう。
私も、つい先日選択を迫られた。
2つの選択肢を前に、どうしても選べなかった。
どちらにもメリットがあり、デメリットがある。
どうしても決めることが出来ない私は、選択を先延ばしにし続け、実生活に影響が出てしまった。
このままでは、人として満足な生活を送れなくなる
危機感を覚えた私は、急ピッチでこの薬を作ったのである。
そしてその薬が目の前にある。
モジホコリを粉末にし、特殊な薬品と混ぜた薬。
私はそれを、ティーカップに注がれた水に溶かし、一気に飲み込む。
不安と期待で押しつぶされそうになること数分、私の心の中にようやくモジホコリが現れる。
すると徐々に心の中にある長大で難解な迷路の隅々まで、細胞が張り巡らされていく。
思考の行き止まりや、堂々巡りを避けていき、モジホコリはゴールを目指す。
そして迷路は解かれた。
そこに残ったのは、たった一つのシンプルな答え。
それは――
「よし!
A社の洗剤を使おう」
これでようやく洗濯が出来る。
色々良さそうな洗剤がたくさんあって、目移りしちゃうんだよね。
これぞ、究極の洗濯ってね
11/18/2025, 1:22:56 PM