あだだだだだだ!!!!
色気のない声が後ろから響く。正直うるさい。
ぎゅう、と腹周りに巻かれた腕は自分と彼女の体を密着させていた。
「おい、運転しづらいからもう少し手を……。」
「離さない!落ちるから離さない!!風が痛い!!怖い!!!!」
ヘルメットにつけたマイク越しでなくても聞こえる声に、エンジンをふかしてスピードを上げるとまた色気のない声が響いた。
バイクって楽しいの?
そんな彼女の好奇心が生んだこのツーリングは、俺個人としてはとても幸運なものだった。気にも止められてないとわかっていても、この幸運を逃す手はないと考えた。
色気のなさは仕方ないにしても、うるさすぎるのが考えものだが。
「怖い!帰ろう!!満足しました!!」
「まだまだ、これからだろ!!」
アクセルを回すと、また悲鳴が上がった。
あとでおそらく、必ず怒られるだろう。
でも、今はこの風と共に独占している優越感に浸っていたかった。
【風を感じて】
8/10/2025, 7:04:54 AM