私には超能力がある。
といっても便利なものではなく、他人が誰に恋しているかがわかる程度。
頭の上に『LOVE ○○』と出て、○○の所にその人が好きな人の名前が入る。
誰にも恋していなければ何も出てこない。
と言っても年頃の男女に色恋は付きものなので、ほとんどの人間の上に文字が出ているのだけれど。
ただこの能力、はっきり言って役に立たないどころか、邪魔ですらある。
例えばカップルなのにお互い好きな人が違うとか、例えば突然好きな人が変わったとか、そう言うのを見るとダメだと思っても邪推してしまう。
しかも『他人の好きな人が分かる』なんて信じてもらえないから、誰にも相談することは出来な――
いや、一人だけこの事を知っている人間がいる。
「先輩、こんにちは」
放課後、下駄箱で靴を履き替えていると、後輩の男子から声をかけられる。
「先輩は今日も綺麗ですね」
「あら、ありがとう」
何を隠そう、後輩は私の恋人だ。
そして私の能力を知っている一人である。
なぜ私の能力を知っているのかと言うと、彼の頭の上にある『Love you』の文字が関係している。
普通Loveの後ろには人名が入るのだが、なぜか彼だけ英語なのである。
姿を見かけるたびに、どんどん疑問が膨れ上がっていく。
どうしても我慢できなくなり、最終的に彼を捕まえて、思い切って聞いてみたのだ。
その時に私の能力のことを話したのだが、もちろん最初は信じていなかった。
だけど少し考えた後、何かに納得して私の能力のことを信じてくれたのだ。
そこで『誰が好きなのか?』と聞いたところ、『あなたの事が好きなんです』と言わた。
『youとはあなたのことです』とも。
突然の事にパニックになりその場では保留にしたのだが、日を追うごとに彼のことを意識し始め、ついに付き合うことになった。
それまで彼のことを全く意識していなかったのだが、告白されたら好きになるんだから、私も現金なものである。
だが謎は残ったままだ。
なぜLoveの後ろに私の名前が入らず、『you』となっているのか?
付き合い始めてから数日掛けて考え、私はある仮説を立てた。
せっかくここに後輩がいるので、仮説を証明したいと思う。
「ねえねえ、ずっと気になってたことがあるんだけど、聞いていいかな」
「なんですか?先輩」
「君、私の名前、知ってるよね」
そう言うと後輩の顔が真っ青になる。
ワオ、マジでか。
本当に私の名前を知らないらしい。
分からないから『you』か。
なるほどね。
「あの、ゴメンなさい」
彼は怯えるような顔をするが、その反応に私の嗜虐心を刺激され、ちょっとだけ意地悪してみる。
実はちゃんと名乗ってない私にも責任はあるのだが、それは棚に上げる。
「どうしようかな~。ショックだな~」
棒読み気味だったが、彼の様子は変わらなかった。
「あの、何でもしますから」
「へえ、何でもねえ」
焦っちゃって可愛いね。
でもいじめ過ぎて嫌われてしまうのも大変なので、ここまでにしておく。
頭の上の文字が変わったら、多分私は立ち直れん。
「フフフ、今回だけ特別にデザート奢ってくれたら許してあげる。
学校の近くのレストランで、おいしそうなパフェがあるのよ」
「うっ、分かりました」
私が提案すると、彼はほっと胸を撫でおろした。
「私の名前は、中村 静香よ」
そう言うと、彼の頭の上の文字が『Love you』から『Love 静香』に変わる。
私はそれを見て、大きく頷く。
余は満足じゃ。
「じゃあ、静香先輩行きましょう」
そういって彼は私の手を取る。
初めての名前呼びに少しむずがゆくなるけど、それ以上に嬉しくなる
やっぱり恋人からは名前で呼んでもらわないとね。
2/24/2024, 9:18:41 AM