「それは自己暗示であり呪いでもある」
「鏡にうつる自分に向かって『お前は誰だ』って言い続けると、発狂するらしいぞ」
「あー、なんか聞いたことある。何回もやってるうちに自分が誰かわからなくなって、鏡の中の自分に恐怖心を抱き始めるとかなんとか」
教室の隅でこの話を聞いてから暫くは、鏡のなかの自分と目を合わせるのが怖かった。
小さい頃、鏡が怖かったから尚更。
鏡にうつる母は、普通に見ているのとどこか違って──左右逆だということが、何故かとても怖かったのだ。
今、その鏡に真っ直ぐに向き合っている。
家のためだけに嫁ぐ私が、しなくてはならないことは、いつまでも私のなかに巣食うあの人への想いを断ち切ることなのだろう。
今からすることは、自己暗示であり、呪いでもある。
正気でなんていられるはずがない。
どんな代償でも払う。
全て忘れても構わない。
良かったことでさえも。
自分の想いを捻じ曲げるくらいならば、心ごと全て自分で葬ってしまおう。
鏡にうつる自分に手を伸ばす。
────鏡
8/19/2024, 2:09:38 AM