拝啓、あなた。桜が散り少しずつ暖かくなってきましたが、いかがお過ごしですか?あなたは人並み以上に花粉症だったので、あまり嬉しくない季節かもしれませんね。私はさほど花粉に悩まされてはいないので、電車の乗り換えで冬の冷たい風に晒される日々が終わり安心しています。けれども気がつけば空気が湿り気を帯びて、梅雨がやってくるのも、そしてまた過ぎ去るのもあっという間なのだと毎年同じ事を思い、そしてその度に少し寂しくなります。
あなたと出会って、そしてこうして手紙を送る関係になれたことを、私は嬉しく思っています。これはあなたを安心させるための言葉ではなく、本心からです。初めて会った時のあなたは、掴みどころがなくて冷たい印象でした。それはこうなった今もある意味変わりません。あなたの冷たさは本当の優しさからくるものなのだと知りました。私のように偽りの温もりを差し出さずとも充分に人を惹きつける魅力は、私がどんなに手を伸ばしても手に入れることはできないでしょう。そしてそんなところを私も好きになりました。もっと他にも、愛おしい部分はあるのだけれど。何度考えても、一番に浮かぶのはそれなのです。
あなたが私のどんなところを好いてくれたのか、それは今でもわかりません。あなたがどんなに言葉にして伝えてくれても、正直何ひとつピンときませんでした。それはあなたの感性が独特であるという魅力の一つからなのか、私が人からの好意に異常に鈍感だからなのか。どちらもかもしれませんね。だけれどあなたが私を、何故だか特別愛してくれていたということは伝わっていました。伝わっていないような態度しか取れなかったこと、心の底から申し訳ないと思っています。嘘ではないのです、もしこれが嘘だというのなら、世の中に正しい事なんて何ひとつ無いと言い切ってもいいくらいです。
あなたは今も、何かに苦しめられながら生きているのでしょうね。それは、悲しいけれどきっと揺るぎない事実なのだと容易に想像がつきます。私はあの頃、あなたが少しでも世の中の温かいものだけを享受して生きていてほしいと心から願っていました。そしてその温もりに自分がなれたらいいと思っていた。けれどもその願いはあなたにとってただ呪いになっていたのかもしれないと、今でも思います。愛情なんていうものは、歪んだ呪いだから。呪いに歪みも何も無いって?本当にそうですね。これは流石に私の嗜好が出過ぎました。
今だって、あなたが少しでも笑っていることを祈っているのです。本当は隣に居たかった、それを一番近くで見守りたかったけれど、叶わない夢となりました。夢だなんて大袈裟な、とあなたは私を呆れて笑うかもしれませんね。けれども、私の夢なんてそれだけだった。あなたの隣で笑う事、あとは…そうですね。強いて言えば、猫を飼う事とかかな。
あなたの隣には今誰かが居るのでしょうか。そうであってほしいと思う自分と、そうでなければいいのにと思う自分がいます。結局あなたの幸せだけを願っていたなんて嘘で、私は私の幸せを願っていたのかもしれません。でも、世の中なんて、人生なんてそんなものだと思うのです。こんな事ばかり考えているから、私の夢は叶わなかったのですね。
今年の梅雨も、雨が沢山降るのでしょう。あなたは傘を持たない人だから、風邪を引かないか心配です。だけどきっと、雫が滴ったあなたの短い髪や長いまつ毛はきっと綺麗で、それすら絵になるのだと思います。隣に私が居たら、そっと傘を差し出すのに。
私はこの先の人生でもずっと全ての季節や景色に架空のあなたを描いて生きていくのでしょう。それしかもう、私の人生に色をつける方法が見出せません。私は、あなたを愛していた。巡り逢えたことに、後悔なんてしていません。あなたを救ってくれる神様が現れますように。私の人生を彩ってくれたこと、感謝します。さようなら。
4/24/2025, 3:39:58 PM